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ーーグリームヒルトの町・跡地、星頂守護機関・宿営地。
十数人が収容可能な特設されたテントの内の一室。
現在ここにいる兵の数は周辺の警護の兵と合わせておよそ二百数十余名。
その中隊の指揮官・ジャンヌの姿がそこにあった。
その日の夜半時。
未明の討伐作戦に向けて今も兵の編成・装備の確認、作戦行動の流れの最終確認が行われていた。
ジャンヌを含め、数名の上官が集まるこのテントでは、逐一報告がなされ着実にその時を迎える準備が整いつつあった。
「ベガルタ中将。
明日の出撃部隊の編成、万事滞りなく完了しました」
「ご苦労。
皆には早めに休息を取らせ、明日に備えさせよ」
兵の一人が背を向けて立つ指揮官に、直立した身体で額に手を当てる敬礼を見せると、彼はテントから退出した。
指揮官、ジャンヌ・フォン・ベガルタ。
本国では軍神、戦女神とも誉れ高い『ベガルタの剣』その人である。
年こそ若輩ながらその驚異的の実力が評価され、中将という地位に就き、また部下からも敬愛・畏怖される存在でもある。
テントの中でも重そうな一体型の盾と槍は下ろさず、まるで常に臨戦態勢を維持しているかのようだ。
「ーーグレッグス中佐。
アークダイン殿の遺品は確かに本国へ送り届けたな?」
「はい、中将。
レイガル少佐にその任を与え、先日数名の部下と共にここを発ちました。
レイガル少佐ならば滞りなくこの大任を果たしてくれるでしょう」
「アークダイン殿・・・無念の最期、痛み入る」
ジャンヌが祈るように目を閉じる。
彼女が『その知らせ』を受けたのがおよそ一週間前。
そして中将である彼女自ら精鋭小隊を率いてこの場所へ辿り着いたのが三日前。
自ら焼け跡を捜索し、そして同胞の遺品を発見する。
ディーモンド・アークダイン中将。
彼は本国の出頭要請を受けて、赴く途中にこの町へと立ち寄り、そして『黒い刃を持つ女』に襲われたのである。
殉職した彼の遺体は結局見つけきれなかった。
ただ彼が愛用していた巨大な銃剣・フラガラッハは回収し、先の話にもあったように、部下の一人にそれを本国へと送り届けるよう命じた。
本来ならジャンヌ自ら送り届けるはずだったが、ある事実を知って彼女はここに残る決意をした。
「ーー奴はまだ動いていないな?」
「はい。
例の場所を十数名の部下に見張らせています。
何かあれば、すぐに知らせの狼煙が上がります」
ジャンヌが開いた眼で鋭く正面を見据える。
ーー遺品を回収後、隊を二つに分け、一つは焼け跡の捜索。
もう一つはいくつかに手分けさせ、付近の捜索に当たらせた。
すると事件が起きたのである。
付近の捜索をしていた数名が何者かに襲われた。
その数名は辛うじて一命はとりとめ、今、テントの一室で治療を受けている。
ただその時、彼らは言い残した。
やった者は『黒い刃』を持っていたとーー。