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――火薬の弾ける音が再び響く。
構えた銃。
その引き金を引こうとしたその瞬間。
不意に持ち手に伝わるすさまじい衝撃ととも
その銃が回転しながら宙を舞った。
膝を強打した時のような強烈な痺れが手首を襲い、
バイスは思わずを手を抑えながら身体を縮める。
そのすぐ後に跳ね飛んだ銃が砂場に、その重みで埋まるように落ちた。
一体何が起きたというのか?
銃が暴発でもしたというのか?
だがバイスはまだ引き金を『引いていない』。
故に暴発はあり得ない。
となると何故。
――答えは一つであった。
バイスが手の痺れに顔を歪めながら、ふと正面に目を遣る。
そこにはついさっきまでは無防備に背を晒していたアリスが、
右半身のみをこちらに向け銃口をこちらに向ける姿。
そしてわずかに漂う硝煙。
ここまで来れば誰の目にも明らかである。
アリスはバイスが銃を撃つよりも早く、
背を向けた状態からバイスの方に振り返り、
さらには一度はホルダーに収めた銃を抜き、
そしてバイスの銃を撃ち飛ばしたのだ。
「・・・下手っぴね」
向けていた銃を引き、銃口を天に向けて頭の横に構えるように持ってくる。
「そんなどす黒い殺気むき出しにしてたら赤ちゃんだって泣きだすわ。
相手を背中から撃ち殺すんなら、
まずは自分のその気配を殺さないと、ね」
呆れるような、そしてどこか哀れむような表情で淡々と言うと、
そっと目を閉じる。
「・・・じょ、嬢ちゃん、何者なんでぇ・・・?」
ただ一人、
今の出来事を傍観者として目撃したデック。
まるで腰を抜かしたように、後ろに仰け反っていた。
信じられないものを見たかのように、
恐怖に引きつった表情。
――彼が見たもの。
それは今のアリスの銃を撃つまでの所作であろう。
あまりに早すぎた――。
だがそれだけではない。
いわゆる素早い銃撃、『早撃ち《クイック・ドロゥ》』は、
それ自体できることは大した自慢にもなりはしないのだから。
問題はやはり照準である。
アリスは自分に向けられた拳銃を、自らの銃弾で弾き飛ばしのだ。
振り向きざま、ということを考えればこれは信じられないことだ。
すなわち自分に向けられる『銃の位置』をある程度予測しなければ、
振り向きざまにそれを射抜くなんて芸当は不可能である。
偶然の範疇でないとするなら、これはまさに神業である。