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「お姉様ぁ・・・足、速いよぉ・・・。
ひどいですぅ、私を置いてくなんーー」
するとようやく追い付いたリリィがアリスの横に並び、不満を訴えようとして声を詰まらせた。
アリスの横顔ーーその眼はまるで燃えるような『紅』で染まっていた。
恐怖を感じたのかリリィは思わず身を引く。
そんな中でアリスはリリィに一瞥もくれず、再び前へ歩き出した。
「お、お姉様・・・っ」
リリィはアリスの後を追えなかった。
ーー怖かったから。
あの『紅』の瞳に見据えられたなら、自分の命が終えるーーそんな錯覚に陥るほど、リリィはアリスに恐怖を抱いていたのだ。
ーー『町だった』場所へと近づいていくアリス。
だが、アリスの視界に二人の軍服姿の人間が入るや、向こうもアリスに気が付き、その二人は直ちにアリスの前に出てその進路を塞いだ。
「おい。ここに何の用だ」
アリスよりも背の高い軍服姿の男二人。
軍帽を深くかぶり、鼻から上を見ることは出来ない。
軍服に入った『逆流れ星』から分かるように、星頂守護機関の人間である。
そのうちの一人が持っていた銃剣を向けながら低い声でアリスに訪ねた。
「あたし、ここの人間なの」
「馬鹿なこと言うな。
見ての通り、町は全て燃え尽き、生存者はいないはずだ」
「あたし、今まで旅に出てたの。
風の噂で町が大変なことになってる、って聞いて、
慌てて帰ってきたんだけど」
「ふむ・・・そうか。
それは気の毒だったな。
さっきも言ったが町はこの通り、跡形もない」
「何があったんですか?」
「不運なものだ。
あの『黒い刃を持つ女』に襲われたんだ」
「『黒い刃を持つ女』?」
「何だ、知らんのか?
最高の額に指定された賞金首だ。
これまでにもいくつもの町をここと同じ目に遭わせている」
アリスは慎重に自分を偽り、見張りらしい兵と会話を重ねる。
アリスの口調には一切の淀みがない。
兵らはアリスの事を疑っていないようだ。
「町の中へは入れないんですか?」
「駄目だ。
今、この地は我々星頂守護機関の管轄下に入っている。
司令官殿の命令があるまでは誰もここより中に踏みいる事は出来ない」
「司令官って・・・誰ですか?」
「お前がそんなこと知る必要はない。
さぁ、さっさと立ち去れ。
どこか別の町に頼るんだな」
素っ気なくそう言うと兵たちは持ち場へと帰る。
アリスが周囲を目の動きだけで観察すると、至るところに同じ格好をした兵たちが見張りに立っている。
数も多く、厳戒な警備態勢が敷かれているようだ。