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「ーーねぇ、お姉様?
お姉様はどこに向かってるの?」
アリスとリリィが歩き始めて二十分程。
リリィはまるで遠足気分のように、リュックからお菓子を取りだして食べ歩く。
差し出したお菓子を断り、黙々と地面に目を遣りながら歩くアリスにリリィが聞いた。
「・・・星頂守護機関を追ってるのよ」
「星頂・・・守護って、さっきの人たちですかぁ?
あの人たちに何か用なんですか?」
「『あいつ』の居場所を知ってるかもしれないの」
「あいつ?」
「・・・『黒い刃を持つ女』よ」
「わぁ、さすがお姉様!
既に私たちの名前を世界に売り出す計画は動いてるんですね!」
アリスはリリィの認識の浅はかさにため息をついた。
そして心底悩んでいた。
正直言って、リリィの存在は邪魔である。
リリィを連れたままでは、雌雄を決すべき戦いにおいて必ず足手まといになるからだ。
だからといって説得が通じるような相手でもない。
また撒こうにもこの見晴らしの良い荒野では、相当逃げなければならないだろう。
いっそのこと、『寝てもらうか』ーー、それも最後の手段であるが、アリスは出来るだけ乱暴なことはしたくなかった。
ならばどうするーー八方塞がりのような状態である。
「そういえばお姉様はなんで『黒い刃を持つ女』を狙うんですかぁ?
やっぱり狙いは賞金ですかぁ?
あ、でも賞金は無しになったんでしたっけ」
「ーーお金なんて・・・いらない」
「そうなんですかぁ?
じゃどうしてーー」
「あなたに関係ないでしょ。
これ以上あたしの事を探ろうとしないで」
アリスが冷たく言い放つと、リリィは少し拗ねたような表情を見せるが、それでもアリスの後に付いてくる。
アリスはリリィに冷たい態度を取り、何とかそれで自分を見限ってくれれば、と期待を抱いていた。
ただ仲良くしようとしてくれる人間に、そういう態度を取るのはアリスも気が引ける思いだった。
だがこのまま自分に関われば、リリィに災厄を招く事になりかねない。
ーーアリスの脳裏にアシュフォード、そしてマリアの顔が一瞬過り、痛みに耐えるかのように目を瞑った。
「(もう・・・嫌よ!
この『血』のせいで他の人たちが死ぬのを見るのはーーっ)」
自分のせいで誰かが死ぬくらいならば、嫌われる方が余程いい。
その方が遥かに悲しみが小さく済む。
たとえ最後は自分一人きりになったとしても、周りが屍の山よりは、自分を無視してくれる人間で溢れている方が遥かに良いーー。