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ーーそうして星頂守護機関が去った先を追うアリスは、ブルーツ・タウンを抜けて再び荒野の道を歩く。
あれだけの人数が地を歩けば跡が残る。
アリスは慎重に目を凝らしながらそれを辿った。
だがその道はアリスが最初に目的地としていた場所に続いていたのである。
リリィから逃げていた時間で大分出遅れたとはいえ、アリスの足ならば追い付くこともできたかもしれない。
だがアリスは敢えてそれはせず、ゆっくりとした足取りで進んだ。
その理由はジャンヌに対する警戒である。
『ベガルタの剣』という二つ名で呼ばれ、何より自分の眼で見てアリスはあのジャンヌという女がただ者ではないと確信している。
だから付かず離れずの尾行では気付かれると踏んだ。
もしその結果、ジャンヌたちと一戦交える、なんて事態にでもなったら『本命』を追うところではない。
それ故にアリスは旅の目的に近付きつつあるという、自分の中の逸る気持ちを押さえ、慎重に徹した。
少なくとも足跡で追える内は無理はしないと。
ーーだが、それが裏目に出る。
「おっねぇえさまぁあーーぁんっ!」
「げっ」
背後から聞こえてきた不吉な叫び声。
アリスはまさかと思いながらも振り返ると、やはり後ろからあの曲撃ち少女・リリィが手を振りながらこちらに迫ってきた。
アリスは観念したのか足を止め、リリィが追い付いてくるのを待つ。
間もなく追い付いたリリィは嬉しそうにアリスを見た。
「良かった~、追い付きました!」
背負っていた小さなリュックを地に落とすリリィ。
「呆れた・・・、
あなた、わざわざこんなところまで追っかけてきたの?」
「はいっ!
だって私とお姉様はコンビですから!」
「勝手に決めちゃって・・・いいから帰んなさい。
これ以上首を突っ込むと、本気で洒落にならなくなるんだからね」
「嫌です!
私、もうお姉様に付いていくって決めたんです!」
「てか、そのお姉様、ってのを止めてよ!
背中がむず痒くなるから」
「いやだ、お姉様・・・照れてるんですか?
可愛い~っ!」
アリスはその時、悪寒を感じた。
同時にまるで幽霊にでもとり憑かれたかのような自らの不幸を心の中で嘆いた。
「もういい・・・勝手にしなさい。
どうなったって知らないから」
「はぁあいっ!
お姉様に付いていきま~す!」
お許しがもらえたリリィは嬉しそうに手を上げて、先に歩き出したアリスを追って、大きなポニーテールを揺らす。
アリスとリリィの珍道中はこうして始まりを告げたのだった。