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「色々、勝手なこと言ってゴメンね。
あなたの名が世界中で聞けるのをあたしも祈ってるから」
アリスは一言謝るとリリィに背を向けた。
これで良い。
これでこの子が別のやり方で名が売れたならばその時は心から祝福してあげようーーそんな思いをアリスは抱いていた。
「ーー感動しましたぁ!」
「へ?」
「私、感動したんです!」
後ろから聞こえてきたその声に、アリスが間の抜けた声を上げながら振り返ると、目を輝かせたリリィがアリスにすがり付いた。
「あなたは世間の風の冷たさを私に教えるために、敢えてあんな事をしたんですよね?」
「ま、まぁ・・・そうね」
「見ず知らずの私にそんな親身になってくれるなんて・・・さっきも私を起こしてくれましたし、金貨まで投げ込んでくれましたぁ!
まるで・・・女神様・・・」
徐々に雲行きが怪しくなるのを感じたアリス。
そしてそれは一気に悪化。
雨、嵐となってアリスを襲うのだった。
「あ、あの、是非お名前を」
「えっ、あ、あ、アリス」
「アリス『お姉様』ですね!」
「お姉・・・って、ちょっと近い、近いからっ!」
特に名乗りもせず去るつもりが、リリィの勢いに乗せられて名乗ってしまったアリス。
あらぬ尾ひれまで付けられ戸惑うなか、リリィの顔がこれでもかと迫る。
「アリスお姉様、私、これからお姉様に付いていきます!
私と一緒に世界に名を売りこみましょう!」
「ちょ・・・っ、待ちなさいよ!
あたしは別に名前なんて売りたくーー」
「チーム名、考えなくちゃいけませんよね?
んーと、リリィとアリスお姉様だから・・・『リリィとお姉様の愛の逃避行!』とか『リリィとお姉様 愛のナンバーワン賞金首大作戦』、とか?」
ーー駄目だ。
アリスは確信した。
このリリィは変な娘ではない。
『危険な娘』であると。
さっそくコンビ名を考え始め、口に指を当てて思案に励むリリィを見て、アリスはそろりとその場から離れる。
そしてある程度距離を取るや、一気に駆け出した。
「あ、お姉様ぁ!
私を置いてくなんてひどいですぅ!」
リリィが気付き追いかける。
アリスは思わず舌打ちした。
「あ、ほら!
さっきのチップが入った木箱、忘れてるよっ!」
「あぁあっ!?大変、忘れちゃ駄目ですぅ!」
「んじゃ、あたしは先に行くからねー」
「あぁん、お姉様、待ってぇ~」
木箱を取りに行く時間を狙ってアリスは一気に距離をつき離す。
町の中を走り、家と家の影を縫うようにして逃げ、やがてアリスは積み上がった木箱を遮蔽物として、そこに身を隠した。