P131
その内容を要約すると、この先にある別の町が『黒い刃を持つ女』に破壊されてしまったが、どうやらまだ近くにその身を潜ませている可能性が濃厚であるという。
また潜んでいる場所も当たりが付いており、翌朝にそこへ自分が赴き討伐してくるのだという。
それ故にもはや『黒い刃を持つ女』を賞金首とする依頼は必要ないため、今こうして自ら抹消したのだというのだ。
「ーーそんな、勝手なこと言わないで下さいよぉ!」
すると立ち上がった曲撃ちの少女が、軍服の男たちに取り押さえられながらも、必死に不満を訴える。
自分もこの辺りにいるという情報を聞きつけ、ここまでやってきたのだと。
『黒い刃を持つ女』の首を取るのは自分だと強く訴えている。
するとジャンヌは曲撃ちの少女へと近付き、腕を横へ振りかぶり、少女の頬を手の甲で強く殴り付けた。
吹き飛ばされるようにして、再び尻餅をつく少女。
「ーーやめておけ。
お前のような子供が戦えるほど、『奴』は甘い相手ではない」
殴られた頬を押さえながら、上目遣いに睨んだ少女だったが、ジャンヌに睨み返されてあっさりと身体を震わせた。
負けを認めるように少女は目を逸らすと、ジャンヌは軽く鼻を鳴らした。
「ーー引き上げるぞ」
用はそれだけだったのか、配下らしき軍服の者たちに声を掛けると、再び列を正し、先を行くジャンヌの後ろについて足並みを揃える。
来た道を戻るジャンヌたち。
また足を止めたままのアリスの横を通りすぎようとする。
「ーー何者かは知らないが、お前も命が惜しいなら『奴』には手を出さないことだ」
「ーーっ!」
「『奴』を倒せるのはこの私だけだ」
アリスの横を通り過ぎる瞬間、目も合わせずに小さくジャンヌが語りかけた。
思わず強い視線をぶつけるアリスだったが、ジャンヌはものともしないようにそのまま通りすぎていった。
「ひゅう・・・たいした自信ねぇ。
まぁ、満更自信だけってわけでもなさそうだけど」
離れていくジャンヌを見守りながら、ようやく強い緊張から解き放たれたように息を吐くアリス。
ジャンヌという女性から感じられた巨大なえも云えぬ存在感、アリスはそれを身体全体で味わっているようだった。
更にアリスにわざわざあんなことを言い残したということは、アリスの考えを幾分か見透かしたのだろうか。
「ま、なんにしてもあたしってバレなくて良かった~」
肝が座ってる性格なのか、アリスは星頂守護機関を前にして逃げださなかった。