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二つの刺すような睨みを受けながらも淡々と布袋を積み終えた女は、
マントを風呂敷代わりにするつもりなのか四隅を結ぶ。
布袋一つ一つにもそれなりの重量があったはずだが、
それを全部で十二袋を入れたその風呂敷包みを女は片手で軽々と持ち上げ、
右肩にかけるようにする。
「じゃそういうことで。
悪く思わないでね」
目を細めながらデックを先に二人を一瞥し、
バイスにはウインクを投げかけると、女は踵を返した。
そしてそのまま男たちとは逆方向に歩を進め始める。
「・・・待ちな、嬢ちゃん」
去ろうとする背中をバイスが呼び止めた。
この世界において決闘の決着、その結果はある意味神聖なるものであり、
それを如何なる形でも汚すことは許されない。
一種の掟、信念のようなものだ。
しかし男はこのとき既にそれを破る腹を決めていた。
巧みな作戦だったとはいえ自分を嵌めたこの女を生かしては帰さない、と。
その証拠に右手に握る銃には力が込められ汗が滲んでいる。
かくしてバイスの静止に女は背中を向けたまま立ち止まった。
「嬢ちゃんの名前・・・聞いていいかい?」
機を計るようにしつつ、何かを含んだ笑みを浮かべながらさらにそう続けた。
無防備な背中。
銃を向けないうちからそこに狙いを定めるように、
バイスの双眸は不気味に光を放っている。
「・・・アリスよ」
『アリス』・・・、
恐らくファースト・ネームだろう。
男たちの方を振り向かないまま、ただ短くそう名乗った。
「アリス・・・嬢ちゃんかい」
「そうよ。・・・満足?」
確認するようにその名前を繰り返すバイスに、
アリスは素っ気なくそう返すと再び歩き始めた。
すると肩の負傷で変わらず鈍い激痛を感じているはずのバイスは、
さらに不気味な笑みに顔を大きく歪ませた。
その雰囲気、そしてただならぬ気配をデックも感じているのだろうか、
ただ固唾を飲むようにして静寂を保っていた。
「その名・・・覚えといてやるぜ!」
そして不気味な気配が明確な殺気に変わった。
不意に右手に強く握られていた銃が振り上げられアリスの背中を銃口が捉える。
照準は明らかにアリスの背中、その中心に向けられている。
身体の中心、もしくはその付近を弾丸が撃ち抜けば致命傷となる可能性は高い。
さっきまでのように肩先を狙ったものとは違い、
明らかにアリスを撃ち殺そうとしている。
自分を嵌めたあの女を生かしては帰さない。
そんな感情がバイスを突き動かしたのだろうか。
そんな様を見ていたデックは声にならない声を上げていた。
――だが、二人の男は未だ見誤っていた。
すなわちアリスの『実力』を――。