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投げ込まれた金貨、その方角を見る少女と目があったアリス。
そんな少女にアリスが目配せすると、少女は嬉しそうに微笑んだ。
同時にアリスも踵を返し、自らの旅に戻ろうとする。
すると振り返った正面。
一人の人間を先頭とする集団が、遠く町外れからこちらに向かって歩いてくるのがアリスの目に入った。
「な、なに・・・?」
アリスは思わず立ち止まる。
集団の人数は二十人はいるだろうか。
やがて立ち止まったアリスの目に先頭を歩く者の姿が目に入る。
「あ・・・」
アリスは思わず声を失った。
そのあまりの美しさ、力強さ、そして神々しさに。
まるで天上から舞い降りたかのような『戦乙女』の姿がそこにあった。
足下まで届こうかという少し金色味がかかった、白銀の透き通るような髪。
アリスを越える長身を包むは、まるで結納の際に着るような、太ももから足まで大きくスリットの入った白いワンピースのドレス。
その上から肩当て、胸当て、腰当てと銀色に輝く鋼鉄の防具。
続いて髪飾りのような額当て。
そして最後に右腕全体を覆い尽くすのは巨大な盾。
内側に長い鉄の柄が付いていて、先端には槍の穂先。
つまり盾と槍が一体化しているのだ。
歳は二十代半ばといったところだが、つぶらな切れ長の瞳で前を見据え、整然とした振る舞いで歩むその姿は、近寄りがたい『気』のようなものを感じさせられてしまう。
事実アリスはその場から進むことも戻ることもせずに、ただ道を譲るように横へ移動した。
こちらへと歩いてくる銀色の髪の美女。
その後ろに歩みを揃えて続くは同じ藍色の服に身を包み、同じく藍色の鉄製の戦闘帽をかぶった者たち。
それぞれ右肩に掲げるように長身の銃を携えている。
「(まさか星頂、守護機関・・・?)」
まず全員が色の白い、いわゆる星頂人特有の肌持ちである。
戦闘帽、そして軍服であろう服に刻み付けられた、上に昇る流れ星のような模様。
そして白銀の美女が身につける防具にも同じ模様がある。
その模様が表す意味とは、星頂人側の軍・警察を一手に賄う組織。
ーー『星頂守護機関』を意味していた。
そして横に移動したアリスと白銀の美女がすれ違うさなかーー。
二人の瞳が合った。
足を止めているアリスに対し、歩きながら見返してくる瞳。
お互いにその線が途切れないように、目を動かしながら視線を合わせる。
だがそれも完全にアリスの前を通り過ぎる頃には、不意にその目が閉じられ、次に開いた時は正面を見据えていた。
「あの人、何者なんだろう・・・」
後に続く者たちを完全に見送ってから、アリスは小さく呟いた。
あの人とは言うまでもなく、前を行く白銀の美女のことである。
ただの兵隊長だとか指揮官とかいう雰囲気ではない。