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カップが浮き上がるのとほぼ同時に発射された弾丸は、空中のカップを更に上へと弾く。
そこから少女の目まぐるしい動きは始まった。
その場でくるりと空中で前転し、着地するのと同時に弾丸を発射。
落下運動に入っていたカップを追い返すように再び上へと弾く。
次に右足を軸に横に回転しながら左腕を振り上げて発射、カップを弾き、
更に器用に横に回転しながら右足だけで立ち上がり、右手の銃を発射、弾丸を弾くーーと、
まるで踊りを楽しみながら二挺の銃を交互に、そして器用に操り、カップを地面に落とさぬよう弾いている。
時には銃を時間差で真上に放り投げ、それを今までとは逆の手でキャッチし銃弾を発射して弾く、などという技も見せてくれた。
「へぇ・・・『曲撃ち』ってやつね。
ってか、素直にすごい。
あんなの出来る気がしないや」
人だかりから歓声が上がり、徐々に盛り上がる。
アリスも少女の技の数々に思わず見惚れながら、そして素直に感心していた。
曲撃ちとはいわゆる銃を使った曲芸のことであるが、あれだけのことは例え練習を積んでもそう出来る者はいないだろう。
まず滑らかで精密、さらに素早く撃つ銃の技術、そしてカップの落下に合わせて常に狙いを修正し、またうまく角度を合わせて弾く事が出来て初めて実現出来る技だ。
「しかもあんな格好で・・・よくやるもんね」
少女が着ている裾の長いドレス。
ただでさえ激しい運動には向かなさそうなのに、踊り、跳躍を何でもないようにこなす。
しかしアリスは少女がその時々で、銃を握りながらドレスの裾も掴み、自分が動きやすいように長さを調整しているのを見て取った。
ただ普通に凄い、と見ているだけでは感じとることの出来ない工夫、見えざる凄さだ。
「にしても、あの子・・・もしかして?」
ふと少女の顔を見ていて、アリスはあることに疑いを持った。
ーーやがて銃が弾切れになったのがこの曲芸の終わりを知らせる合図。
ようやく解放されたカップは地面に落ち、疲れ眠るようにその場に留まった。
同時に湧く拍手喝采。
少女は嬉しそうに笑うと、不意に小さな木箱を持ち出しチップを要求。
これだけの凄い技を見せてくれたのだから、と町の人間たちも気前良くその木箱の中に銅貨を投げ入れていく。
愛想良く笑顔を振り向く少女を見て、アリスも懐から一枚を握ると、遠くからその木箱を目掛けて放り投げた。
すると突然色の違う硬貨が入ってきたのに気づいて少女が驚く。