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その金額は三代に渡って一生を裕福に暮らせる程の巨万の額である。
他の賞金首の賞金額とを遠目に比べても、確実に桁が3、4つ違う。
その分ハイリスクであり、死を覚悟の上で挑まねばならないことは言うまでもない。
しかしアリスが更に内容を掘り進めていくと、妙な一文に気づいた。
『生死は問わず。 ただしその者が持つ黒い短剣は無傷で回収し、賞金と引き換えに当方に手渡すこと』ーーと書いてある。
そして依頼人を見ると・・・『星頂守護機関』ーー。
「どういうこと・・・?
星頂守護機関が『あれ』を手に入れてどうしようというの?」
まず依頼人にも驚いたが、あれほどの金額となれば確かに星頂人、それもかなりの立場の人間でなければおいそれとは払えまい。
だがそんなことよりも金と引き換えに『それ』を手渡せという条件。
星頂人が『あれ』を手に入れたがってるーー?
一体なんのためにーー?
アリスは考えたが、当然そんなすぐに答えが見つかるはずもなかった。
ふとアリスは腰に下げた亡き祖母の、そして祖父が託してくれた形見に手を触れる。
「まさか、星頂人はこれも狙ってるのかな・・・」
予感だった。
『黒』と『白』は双頭一対。
星頂人が『黒』を狙っているのだとしたら、『白』も狙ってるいるのかもしれない。
だが何のために?
これを扱うためには『受け継がれた血』が不可欠。
ただの観賞目的か?
どことなく嫌な予感に苛まれていたアリスだが、脇で一際高い歓声が上がって、思考を遮られた。
ふと視線を人だかりの方に戻すと、いつの間にかさっきと状況が変わっていた。
台の上に乗っていた少女が地に下り、集まった人たちは少女の横に移動している。
少女の正面、3、4メートル程離れた位置に、鉄製のカップのような物が置かれている。
何をしようというのか。
流石にアリスも気にならずにはいられず、少女の動向に注視した。
両手に拳銃を構え、一度気持ちを落ち着かせるように大きく吸い込んだ息をゆっくりと吐き出した少女。
すると不意をつくように右腕を鋭く前に突きだし、撃鉄を起こすのと同時に引き金を引き、右手の銃が火を吹く。
発射された弾丸はカップの底を弾くと、それ自体が衝撃で空中に浮かび上がった。
そして同時に動いていた少女が今度は身体を切るように左腕を突き出し、同じように今度は左手の銃が撃鉄を鳴らした。。