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ーーそれから十数時間後、アンジェリカは無事にノースフロンティアへと辿り着いた。
更にアリスが向かう場所になるべく近い場所に下りられるよう、アンジェリカを砂漠の地を伝い行けるところまで動かす。
やがて砂地が途切れ、土の大地との境界線でアンジェリカは停止した。
アリスはいつも通りに帽子をかぶってマントを羽織り、水などの最低限の装備を備えてアンジェリカから下りた。
「ーーじゃあ、気を付けてな、嬢ちゃん」
「姐さん、気を付けてくれよ?
星頂人に見つかったら駄目だよ」
「うん・・・ありがと、ボブ、ボビー」
今までにも何度となく交わした、名残惜しむような一時的な別れ。
だが一時的とは限らない。
アリスはこれからは星頂人に追われる身。
あれから二週間。
世界全域に指名手配が行き届いている可能性も鑑み、これからは常に気を配らなければならない。
「ボブ。昨日は、あたし・・・」
「嬢ちゃん。
俺たちは何があっても嬢ちゃんの味方だ。
余計な遠慮や気遣いは無用だぜ」
「・・・ありがと、ボブ」
何かを言いかけたアリスにボブが頷きながらそれを遮る。
お礼を言いながら互いに笑顔を向け合う二人だったが、事情の分からないボビーは怪訝そうにしていた。
ーー最後に定期連絡の方法を確認したアリスは、ボブ親子と別れる。
彼女の新たな目的に向かって荒れた大地を歩き出すのだった。
ーーサンド・フロンティア。
その北の地であるノース・フロンティア。
今までアリスがいたのはイースト・フロンティアであるが、天候や大地にさした違いはない。
人々の暮らしにも慣習の違いはあるものの、世界を旅しているアリスにはあまり気になることでもない。
事実、アリスがこのノースの地を踏むのは初めてではなかった。
とはいえ数年前の話である上に、何も全域を踏破したわけではない。
予め調達しておいた大まかな情報を記した地図を片手に、アリスはその目的地に向かっていく。
ーーアンジェリカでノース・フロンティアに着いたのがその日の夕日が見えた時間帯。
それから小さな町を一つ通りすぎ、更に荒野の道を休まずに歩き、
沈んだ太陽が再び昇り始めた頃、アリスは二つ目の町へと辿り着いた。
名を『ブルーツ・タウン』。
山岳地帯が多いこの辺りは鉱物の採掘が盛んなのだろうか、つるはしやシャベルを持ち、更に荷車を引く筋骨隆々な鉱夫らしき人間が出掛けていく姿がよく見られる。
だがここがアリスの目指していた場所ではなく、用のない場所に極力長居しないことを心掛けるアリスは、この場所もただのあてのない旅人を装って、静かに通り過ぎるはずだった。
だがあるものが彼女の目に留まることになる。