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「嬢ちゃんが今まで探してた、って人がその・・・残念な結果になったわけだけどよ。
預かりものとやらは受け取れたんだろ?」
「うん・・・」
「それを使って何かをするための旅・・・なのか?」
目をそらすアリス。
ボブはそんなアリスの顔を覗くように聞いてくる。
ーーしばらく答えなかったアリス。
やがて、その瞳が閉じられた。
「ーーごめん、ボブ。
ボブの事は信用してるし、頼りにしてもいるけど・・・。
ーーでも、やっぱりこれ以上あたしに深くは関わらない方がいいと思う」
「嬢ちゃん・・・」
「それにこれからあたしがやろうとしている事・・・ボブやボビーに知られたくない。
知ってほしくないの」
目を閉じたままそう語ったアリス。
アリスの顔を長く見てきたボブは、何かを感じたかばつの悪そうな顔を見せた。
「・・・悪かったな。
余計なこと聞いちまった」
「ううん、あたしこそお世話になりっぱなしなのに、何も言わないなんて悪いよね。
でも・・・ごめん」
アリスは座りながら立てた両膝の後ろに顔を隠してしまう。
「あたし・・・ボブやボビーにまで災厄を招きたくない。
もう、あたしの側で誰かがいなくなるのは・・・嫌なの」
「嬢ちゃんの考えすぎさ。
俺たちはいなくなったりしねぇよ。
ーー考えてもみろよ。
俺たちはもう五年の付き合いなんだぜ?」
「だから・・・だから怖いの。
付き合いが長くなればなるほど・・・失うのが、怖い・・・」
「アリス嬢ちゃん・・・」
「あたし、最低だ。
怖いとかなんとか・・・自分の事ばっかりーー」
それはボブにとって初めて見るアリスの姿だった。
アリスという少女を長く見てきて、いつも強気で弱音など吐かない彼女は一人でもたくましく生きていける女と思っていた。
さすがはあの伝説の女傑の血を引く女だ、とボブは感心すらしていた。
しかし今はどうか。
ひどく弱気で、か弱く膝の内で泣きじゃくるその姿はいつもとまるで違う。
あるいは酒の効力が悪い方に出たのか。
それともアリスは今まで必死に張り続けてきた虚勢を、酒がそれ拭い去り、本来の彼女をあぶりだしたのか。
彼女の中にある深い悲しみ、不安。
一体どうすればそれを取り除いてあげられるのか。
その答えがわからないボブはただアリスが泣く姿を眺めていることしか出来なかった。