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しかしながらエリア間の砂漠はやはり広大で距離があること、
またアンジェリカには連続稼動に関して一定の制限があるらしく、定期的にメンテナンスをしなければならない。
更に操縦に関しても操縦士であるボブとボビーに大変な負担を強いることになるため、適度に休息も挟まなければならない。
そんな事情も相俟って、到着には一日、二日掛かるだろうとのことである。
それでも歩いていくよりは大幅な時間短縮であるが。
ーー出発して一日目の夜。
メンテナンスを終えて一時の骨休め。
アリスはボブ、ボビーと談笑を交わしていた。
息子のボビーはアリスの旅の話を聞くのが大好きらしく、アリスが話して聞かせると、嬉しそうに耳を傾ける。
ただアリスの旅はその身に背負った宿命と言うべきか、楽しい話ばかりではない。
アスピーク・タウンでの出来事のようにーー。
話が終わるといつしか空気はしんみりとしていた。
「ーーそうか・・・辛かったな、嬢ちゃん」
「姐さん・・・かわいそ過ぎますよ・・・っ」
「ちょっと、ボビー。
何もあなたが泣かなくったって・・・」
男二人の生活で汚れた狭い船内。
アリスを含めた三人はボブが用意した酒を酌み交わしていた。
そんな中、壁に寄りかかるアリスの話を聞いてボビーが自分の事のように泣き出してしまう。
アリスを姐さんと慕うボビー。
母の顔も覚えておらず、普段外界にあまり出ることのないボビーにとって、年上のアリスは数少ない異性の知り合いであり、姉のような憧れを抱いていた。
ーーやがて酒の効力と操縦の疲れから、ボビーは自然と寝息を立てていた。
隣で自分と同じく壁に寄りかかるようにして眠るボビーの頭を、アリスはそっと撫でた。
「・・・ねぇ? ボブ」
「ん?」
「開拓民と星頂人ってさ、仲良く出来ないのかな・・・?」
カップに入ったお酒を少しずつ口に含みながらふとボブに訊くアリス。
ーーアスピーク・タウンでの悲劇。
元を正せば、開拓民と星頂人の関係がうまくいってなかった事が原因だ。
アスピーク・タウンに限らず同じような例を見てきたアリスがそんな疑問を抱くのは無理はなかった。
「・・・難しい質問だな」
「ま、何を今さらって感じだけどね」
ボブが一気に酒を飲み干すと、頭を強く何度も掻く。
アリスの質問にボブ自身も考えを巡らせているようだった。
そんなボブを見たアリスは自嘲気味に笑う。