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「ーー正直に言えば私も知らないのだ。
だが元老院の方々はこの特務は我々の同胞の未来のためとおっしゃっておられた」
「本当に・・・知らないのかい?」
「ああ。何も聞かされてはいない」
アーサーもランディの視線に真っ向から対抗し、両者が睨み合う。
そんな状態がどれくらい続いただろうか。
ランディが息を一つ吐くと、自らの身体を引かせた。
「ーー特務の内容は、それだけかい?」
「・・・ああ。
現段階では以上だ」
ランディがそれを聞くやいなや早足で歩き出し、無断で部屋を後にする。
アーサーはその間、ランディがいた場所を見つめたまま彼女を止める事もせずにいた。
「ーーこの特務についての詳細は追って書面で知らせる。
・・・以上だ」
アーサーが残った面々にそう告げると、先ずはバートエッジ兄妹が無言で退室し、
フラムベルグもアーサーに対し物言いたげな雰囲気を前面に出しつつも、やがて部屋を出ていった。
残ったのはクリーク。
そのクリークはアーサーと二人になったのを見て、隊長のデスクの前にそっと足を踏み出させる。
「ーーいいんですか?隊長。
ランディさんもフラムベルグさんも、納得していない様子でしたよ」
「彼らの性格を考えれば予想の範疇だ。
・・・心配ない。
ランディもフラムベルグも・・・少なくともセット・エトワールの一員である限り、己の職務を放棄したりはしない。
ーー頼れる二人さ」
「なるほどー。
さすがは隊長。
隊員の事をよく把握していますね」
「ふふ、そんなことはない。
私は単に彼らを信じているだけのことだ」
「バートエッジのお二人もですか?
少々、単独行動が目立つようですけどーー」
「言うまでもない。
例えそうだとしても、それが我々にとって有利に運ぶよう導いてやればいいまでのことだ」
自信に満ちたアーサーの微笑。
クリークは変わらぬ笑顔のままそれを見続ける。
変わらぬ笑顔の裏にある感情は読み取りづらい。
「クリーク。
仕事を頼まれてくれるか。
副隊長に今回の事の伝令を頼む」
「また僕が行くんですかー?
アリス・ジェーン・カナリーに関する『仕込み』といい、最近、人使いが荒いと思いますよ?」
「ふ、まぁそう言うな」
「仕方ないな~、隊長の頼みだから従いますけど、
特別手当はよろしくお願いしますよ?」
そう言いながら歩き出したクリーク。
アーサーの視界から消えたと思いきや、既にその姿は室内からかき消えていた。
アーサーは一人残された室内で、満足そうに小さく笑みを浮かべていた。