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最初の一発を外したのは作戦。
もし最初に二人の内どちらかを倒したとしても、
残りの一人に順番が移り、必然的に自分が狙われることになる。
だがあえて最初の一撃を外し、
付け加えるなら自分がいかにも銃に素人であるということをアピールすることで、
二番に撃つ者は『素人の自分』よりも、
銃の腕の知れぬ三人目を狙う公算が高くなる。
こうして自分以外の二人を巧みに争わせて自らの安全を確保し、
それによってどちらかが倒れたらそこで残る一人を倒す。
さらに言うなら素人と思い込んでいる相手は、
自分の銃撃の際に油断する可能性が高い。
その油断が回避の際の初動の遅れを招き、
自分の銃撃の成功率を高めている。
この作戦は最初にこの勝負を提案した時からの予定であり、
そして女の読み通りに全て事は運んだわけだ。
「―-普通にやっても良かったのだけど・・・、
リスクは少ないほうがそれに越したことはないわ。
特にこの世界ではね」
種明かしを終えた女は肩を竦めつつそんなことを言ってのける。
言わば女の作戦に嵌められた格好でもある二人の男は、
納得のいかない、
特にバイスは恨みつらみをこめた視線を送り続けていた。
「さて、と・・・」
そんな視線を特に気にする様子もなく一息入れるようにすると、
突然女は今の今までその正体を隠していたマントの裾を右手でつかむと、
まるで振り回すかのように勢いよく取っ払った。
一瞬砂煙がその周りを覆うがそれもすぐに晴れて、
ついにその隠されていた姿があらわになる。
170から180はあろうかというすらっと伸びた長身の身体。
引き締まった四肢は長年の鍛えによるものと推測されるが、
女性特有の肉付きによる柔らかい線も保っている。
身体と合わせて観察しても太りすぎず痩せすぎず、
大げさに言えば絶妙なバランスともいえる肉体だ。
そんな身体を覆う衣服も上は腹を出した白いタンクトップと短パンのみであり、
惜しげもなくさらされるわずかに日焼けした白い肌は見た目にも艶めかしい。
そして太陽の光に反射しているかのような美しく、
柔らかく滑らかなウェーブのかかった肩ほどまで伸びるセミロングの金髪。
二人の男が声のみで美人であろうと予想していたことを裏付けるかのように、
美しい顔立ちの女性がそこに佇んでいた。
「これ、もらっていくわね」
切れ長の瞳が男二人を一瞥し、そう断りを入れるように言うと、
今までは羽織っていたマントを今度は砂地に広げるように敷く。
そしてその上に手際よく賞金の布袋を積み始めた。