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「・・・気に入りませんわ。
私たちがこうして指示通りに出頭しているのにも関わらず、
一人だけが姿を見せないとは」
「グラッセリカの言う通りさ。
『あいつ』は特別扱いってわけかい?」
グラッセリカに続いてランディが不満の声を上げた。
「いえ、僕のせいなんです。
ランディさんに声をかけたあと、僕が探しに行ったんですけど、
ほら、『あの人』も神出鬼没なところがありますから・・・。
僕も見つけることが出来なくて・・・困りましたよ」
頭に手を遣りながら愛想笑いを見せるクリーク。
納得したわけではないだろうが、事情は察したのかグラッセリカもランディもそれ以上は声を挟まない。
「だがこちらに戻ってきてないなら、今回の任務を知らないのではないか?
何故それで『奴』が動く、と分かる?」
フラムベルグの当然とも言える質問にアーサーはふと立ち上がり、一同に背を向ける。
長い髪の毛が一瞬靡いた。
一同が訝しむ中、間を置いて背を向けたままアーサーが口を開く。
「ーーあいつは、『災厄の血』と因縁浅からぬところがある。
それは皆も知っての通りだ」
アーサーの言葉に一同は黙って耳を傾ける。
「今回のアークダイン少将の悲劇の事は、あいつも既に耳にしていよう。
故に必ず動く。
これ以上、『災厄の血』の好きにさせないためにも、な」
「・・・だが単騎で動かすのは危険だろう。
アークダイン殿の二の舞になりかねんぞ?」
「あいつもそれは承知の上だろう。
だからいずれ必ず機を見て我々にコンタクトをとるはずだ。
その時こそが、今回の任務の実行時期だと私は考えている」
「隊長がそこまで信を置いてる、ってわけかい」
「そう受け取ってもらって構わん」
フラムベルグとランディの声に背を向けたまま答え、一同は再び口を接ぐんだ。
連携行動を取るべき時に単独行動を取る者がいる。
ランディを始め、この場の何人かはそれが納得いかないようだが、隊長であるアーサーにそこまで言われては追及しきれないらしい。
「ーー諸君、各自、言いたいことはあるだろうが、
私を信じる意味で私の意向に従ってほしい」
一同の方に振り向いたアーサーがそう投げ掛け、この話はここで打ち止めとなる。
クリークは素直に頷く中、ランディとフラムベルグは互いに目配せを交わしながら、何かをやり取りしている様子を見せていた。