P112
ーー元老院からの勅命を受けたアーサーはその部屋を後にして、電光灯に照らされた通路を歩いていた。
するとふと何かに気がついたのか、横目で後ろを目に遣る。
抜け道のない一本道の通路にも関わらず、いつの間に背後に現れたのか、長身のアーサーより一回り小さい、少年のような優男が追いかけるように歩いていた。
サイズこそ違うが、アーサーと同じ白い軍服に身を包んでいる。
「・・・クリーク、まさか盗み聞きしていたのではないだろうな」
「いやですよ、隊長。
そんなことしたら僕、隊長に粛清されてしまいます。
ーー部屋の外でお待ちしていただけです」
「・・・ふん、どうだかな」
明るい笑顔の彼に鼻で一つ笑うと急に足を早めたアーサー。
それを更に追いかけるべく走り出すクリークという男。
少年少女と見まごう風貌でありながら、彼もまたこの星頂守護機関内においては、上位に属する幹部の一人である。
ーーそしてアーサーとクリークは程なくしてある部屋の前にたどり着いた。
『星頂特殊任務管理課局』。
その名が示す通り、星頂守護機関内においても特殊なケースの事案を扱う部署だ。
そしてアーサーはこの部署の隊長であり、最高指揮官である。
自動扉の鍵となる認証カードをカードリーダーに通して扉を開くと、二人は室内へと入った。
すると室内には既に数人の人間たちがアーサーを待っていたのである。
「ーー遅くなって済まなかったな」
アーサーが声をかけるが返答はない。
部屋にいたのは四名。
用意された七つのデスクに、各々が自分の席に座りアーサーを待っていたようである。
部屋に入ったアーサーは、一段高い壇上に設けられた、皆が見渡せて向かい合う形の彼専用のデスクへと着き、
クリークは空いている三つのデスクの内の一つに座った。
アーサーの背後の壁に、上に昇る流れ星を象った模様が施されている。
その模様は星頂守護機関のシンボルマークであった。
「ーー頼れる我が同志にして、誇り高き軍師たる『セット・エトワール』の諸君。
遠路はるばるの帰還、御苦労だった」
まだ二つの空席があるが、揃っているものとみなしてアーサーが声をかけた。
星頂守護機関・特殊任務実行部隊、『セット・エトワール』。
『七つの星』という意味があるこのセット・エトワールと呼ばれる面々は、それぞれが数千という部隊を指揮できる将官でありながら、また特殊な任務の際には己の身を使い、それを全うすることに命を懸けるまさに精鋭中の精鋭隊員である。