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「やめとけって。
素人が強がったって後悔するだけだぜ?」
「そうかしら?」
「悪いことは言わねぇ。
怪我したくないなら大人しく俺の言う通りにしとけって。
こちとら勝てる勝負を蹴って、わざわざふ平和的解決しようって言ってるんだぜ?」
バイスは完全に女を侮っている。
先の女の銃撃を思い出せば当然といえば当然か。
「・・・ねぇ、こんな言葉を知ってるかしら?」
「あぁ?」
「本当に能のある狩猟者は・・・最後までその爪を隠すもの、ってね」
女がそう言い放つのと同時。
先の銃撃は震える両手で握っていたが、
今度は右手一本でしっかりとグリップを握り込み――。
一度合わせた照準を修正することなく、
そのまま迷いなく引き金は引かれた。
弾ける火薬。
発火音が空気を震わせ、
放たれた弾丸が空気を切り裂き、まっすぐ標的に向かって飛来する。
バイスは成す術がなかった。
完全に反応が遅れている。
『撃った?!』と認識したのとほぼ同時に、
自らの左肩が放った弾丸によって撃ち貫かれていたのだった。
「あが・・・っ!?」
瞬間肩に走る激痛に、
間に合わなかった回避行動を取ろうとした身体が背後へと倒れ、
そのまま尻餅をついた。
デックに負わせた銃創とほぼ同じ銃創を自らも負うこととなったバイス。
その表情は激痛に耐えているというよりも、
信じがたいものを見たという驚愕の表情だ。
デックも同じ思いなのか口を開けたまま呆けていた。
一方、撃ったマントの女は銃を構えたままの姿勢。
その堂々とした立ち振る舞いは彼女が銃に対して、
素人などではないことを如実に示してもいた。
「・・・私の勝ちね。
早速だけど賞金はもらっていくわ」
構えを解いて銃を内にしまい込むと、
勝利の喜びなど感じさせない冷めた口調でそう宣言する。
そしてゆっくりと歩を進め、
砂地の上に放置された賞金の入った布袋の山の目の前にたどり着かせた。
「て、てめぇ・・・、
最初の一発は芝居だったってのか・・・?」
銃創から流れ出る血を反対の手で押さえながら、
バイスはマントの女をにらみつける。
「―-そうよ。
最初の一発を外したのは私の作戦。
こんなに巧くいくとは思わなかったけどね」
「し、芝居だと?
なんでそんなことを?」
マントの女の言葉にデックがすかさず反応する。
わざと外したというのはどういうことか?
女は種明かしを始めた。