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燃え盛る炎。
その中に揺らめく影が見える。
愛弟子を無惨に殺した憎き敵ーー。
対する彼は渾身の力を振り絞り、フラガラッハを振り上げ、右肩に抱えるようにして構える。
彼が吠え、そしてフラガラッハの銃口も咆哮を上げた。
その衝撃に後退りながらもしっかりと支え、二十センチの口径から発射された弾は、揺らめく影がいた場所に着弾し、爆音と共に爆風が吹き荒れた。
ーーだが。
影はまるでその爆風を自らの気流とするように空を飛び、彼の頭上に迫る。
そしてーー。
振りかざされた漆黒の一閃は、彼の左腕を肩から切り落とした。
苦痛の叫びーー。
たまらずフラガラッハを地に落とし、血が噴き出す患部を押さえる。
耐え難い激痛に苦悶の表情を見せつつも、ゆっくりと顔を上げる。
彼は迫る死の間際、その姿を目に焼き付けた。
災厄をもたらす者、災厄を振り撒く者、
漆黒の刃を携えた『少女』の姿をーー。
災厄の『紅』に染め上げた世界で、狂喜に笑うその表情をーー。
「か・・・、カラミティ・・・、ジェーーーンっっ!!」
最後の力を振り絞り、右腕一本でフラガラッハを持ち上げようとする。
ーーが、彼の眼前にあるものが飛来した。
持ち手が付いた、手投げ式の爆弾。
それをそうと認識する間もなく、刃から銃へと瞬時に姿を変えた漆黒の武器がそれを撃ち抜く。
彼の目の前で光が弾け、同時に命の炎も弾けて吹き飛んだ。
持ち主を永遠に失ったフラガラッハは、寂しくその場に残り続けるのだった。