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ーー町が炎に撒かれていた。
突如その町を襲った『災厄』。
それは町にいる全てを紅い炎の中へと呑み込んだ。
大人、子供、動物ーー。
例外なく己を焼く炎にもがき苦しみ、そして果てた。
止めようと戦いを挑む者もいた。
だが無駄だった。
それはまさに時として人を襲う災害であるように。
『荒れ狂う衝動』は自らに抵抗しようとする者を嘲笑うかのように、『漆黒の刃』が切り刻み、その刃を『紅く』染め上げた。
まるで生き血を喰らうかのようにーー。
「ぐぐ・・・っ、な、なんという事だ・・・っ!」
炎に焼かれた町。
そこにいたほとんどの命が炭と成り果てながらも。
『彼』は最後の砦だった。
彼は彼の属する組織から、長年振りの全員召集の辞令を受け、
百数十余名の部下を引き連れてその組織の本部へと出頭するところであった。
およそ1、2週間の道のり、その道中において彼らは『その町』へと立ち寄った。
そして旅休みをしている最中、『奴』は現れる。
何の言われもなく町を破壊し始めた『奴』を止めるべく、休息中の部下を繰り出した。
ーー彼は高齢の自分に代わる逸材を見つけるべく、後進の育成に積極的に励んでいた。
百数十余名の部下全員、彼が手塩にかけて育てあげ、いつどんな戦場に出しても期待の戦果をあげられる者たちと信じていた。
だがーー今。
その部下たちは一人として生き残る者はいない。
全員が全員、その鍛練の成果を満足に活かせず、町人同様虚しく燃え散っていった。
そして彼もまたーー。
散っていった愛弟子を悼む間も与えてはくれず、彼自身生き残る事に精一杯だった。
「な・・・なんと、恐ろしい・・・。
この力は・・・先代のそれを遥かに上まわ・・・ぐっ!」
六十を越える老兵は、己が数十年命を預けてきた愛用の武器に寄りかかるようにして、傷ついた身体を支えていた。
『轟砲銃剣』、『フラガラッハ』。
二メートル近い背を持つ彼すらも越える全長を持つその武器。
大砲のような銃口の上から伸びる、幅五十センチはあろうかという大剣。
その重さは優に百キロを越え、豪腕の彼はそれを自在に振りかざすことで過去の戦争において武勲を立てた。
年を重ねた今でも充分に扱うことができるが、今の彼にはそれを持ち上げる事すら苦しい状態に追い込まれていたのである。