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すると馬から下りた町人たちは、ランディの話を聞いて矢も盾もたまらず動ける者だけで追いかけてきたと話す。
なんでもアリスは自分がいたら迷惑がかかるーーだからなにも言わずに出てきた、と。
アシュフォードの仇をとり、上納金の値上げを企んでいた悪党の星頂人を倒してくれた英雄が、何を水くさいことを、そんなこと言わなくて良い、今度は俺たちが護ってやる、などまるで怒号のような町人たちの声が飛び交う。
アリスは困ったように笑いながら、思わず頭を抱えた。
「(もうランディさんってば・・・普通、そういうことは黙ってるもんでしょ・・・)」
余計なこと言いやがって、とアリスはランディに対して毒づきつつも、内心では町の人たちの思いやりが嬉しくもあった。
自分は星頂人に追われる身となった。
そんな奴は関わらない方が利口であり、自分たちの生活を守る上でも当たり前の思考だ。
ましてアリスは余所者である。
それを厭わずわざわざ馬まで出して追いかけてきて、引き留めに来てくれたのだ。
ーー温かい・・・。
アリスは興奮する町人たちを宥め落ち着かせながら、その心は満ち足りていく思いだった。
行くな、町に連れ戻す、という町人たちをアリスは説得を重ねる。
やはり町のために自分はいるべきではない、
それに自分には旅の目的があること、それが何かは明かせないが人生を賭けてやり遂げなければならないーーと。
それならばせめてもう少しの間でも、という町人たちの言葉をやはりアリスは拒んだ。
アリスの頑なな意思に町人たちは徐々に高ぶる思いを鎮まらせ、遂にはアリスを引き留めるのを諦めさせたのだった。
アリスも本当は後ろ髪を引かれたが、ここは己の意志を貫いた。
すると町人のたちの中から一人の少年が顔を出す。
アリスを見るなり『優しいお姉ちゃん』と元気な声を響かせた。
アリスも覚えていた。
彼は万引きしようとしたところをアリスに捕まった少年である。
町人たちの話ではアリスを探し回っていたというこの少年を、ついでに連れてきたのだという。
少年はあの時アリスがくれた金貨で薬を買い、まだ動けないものの回復の兆しを見せているという。
そのお礼がしたいといい、少年は果物が入った袋を手渡した。
少年は万引きしたお店に謝り、その店の手伝いをする事で得た果物をアリスに今、手渡したのだ。
アリスは少年の頭を撫でながらそのお礼を受け取る。
そのお礼はアリスにとっては金貨一枚などでは代えられないものとなったのだろう。
ーーそうして町の人たちに惜しまれながらもアリスは彼らにさよならを告げた。
きっとまた会えるーーそんな気持ちを胸に抱き、アリスの長い旅は再び始まりを告げたのだ。