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ーーその頃、ランディと別れたアリスは言っていた通り、アスピークタウンには寄らずにそのまま離れる事にした。
最初に歩いてきた道を逆に歩き、足は再び砂漠の方へと向いている。
彼女にとって今回の出来事はこの八年の旅の中で区切りとなり、そしてまた新たな旅が始まろうとしていた。
「あそこも・・・いい町だったな」
たった3、4日の滞在だったが、
アリスはそう思える程の良い時間を過ごしたと思っているようだ。
言うまでもなくアシュフォードやマリアの一件は悲劇だった。
だがそれを除けば、あの町での一時は温かい時間だったのだろう。
アシュフォードの計らいがあったとはいえ余所者である自分を受け入れ、良くしてくれたのだ。
ーー今までもそうだった。
ふと立ち寄った見知らぬ町。
余所者である自分に優しくしてくれた人たち。
アリスはそんな優しさが、温もりが大好きなのである。
いっそのこと何もかも忘れて、町人の一人としてそんな優しさの中で暮らしたい、自分もそんな人たちを愛したい、と何度も思った事があった。
だが彼女の血がそれを許さない。
アリスの血は人を不幸にし、そして己をも不幸にする。
その度に彼女は己の血を呪い、更に甘い期待を抱いた己を呪ってきたのである。
果たして自分に居場所はあるのだろうか。
いつかアリスの旅の目的が果たされたとき、彼女はその後どこに行けばいいのだろうか?
所詮自分は疫病神、色んな人間たちがいる町で暮らすなんて不可能であるのか。
アリスは町を離れる度にそんな思いを胸に抱いていた。
今もそう。
考えれば考えるほど気持ちが沈む。
ため息をつきながら歩いているーーそんな時だった。
背後から複数の足音が近づいてくるのにアリスは気づいた。
しかもその足音は人間のそれではなく、馬の足音ーー?
アリスが振り返ると、町の方からこちらに向かって複数の馬たちがこちらに向かって来るのが見えたのだ。
アリスは思わず立ち止まる。
明らかに自分の方にやってくるーー。
やがて馬はアリスの近くまでやってくると、乗っているものの指示でゆっくりと動きを緩めた。
全部で8、9頭ほどになろうか。
そのいずれの背中にも町の人たちがまたがっている。
名前こそ知らない者も多いが、そこに現れた人たち全員の顔をアリスは覚えていた。
「なに・・・なんなの?」
アリスは思わず皆に訊ねた。