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「ーーで、本題は?
もっと大事なこと伝えに来たんだろ?」
「ああぁ、さすがランディさん!
いや~、僕って大事な話を切り出すタイミングってよく分からなくて苦労するんですよ~。
そうやって聞いてくれると助かります」
屈託のない少年の笑顔に、ランディは呆れたように頭を抱える。
「えっと・・・隊長から召集命令が下りました。
星頂特務実行部隊、『セット・エトワール』、全員直ちにセントラル・シティ星頂守護機関本部に出頭せよ、との事です」
ランディの表情が一瞬にして険しく引き締まった。
「『セット・エトワール』を全員集めるなんて、戦争でも始めようってのかい?」
「いえ・・・元老院の方々の御指示だそうです」
「・・・あたしらはあの『骨董品』どもの体のいい道具じゃないんだけどねぇ」
ランディが舌打ちする。
ひどく気に入らない様子である。
「ま、あたしの今の任務は第二級要監視人物のゼニス・ドマ・センチピードの監視。
そのゼニスが死んだ今、あの町にいる用事はないんだけど、ね」
「丁度いいタイミング、ってやつですね」
「あの町で静かに宝石眺めながら過ごす、ってのも悪くなかったんだけどねぇ」
「ら、ランディさん・・・お願いしますよ~。
ランディさんが召集に応じてくれないと、僕が隊長に怒られちゃいますから」
「・・・ったく、お前は男の癖にシャキッとしないね。
少しはあの嬢ちゃんを見習いな」
「もう・・・そうやってすぐに人を子供扱いするんですから」
落ち込んだように肩を落とすクリーク。
まるで勝ち気な姉と弱気の弟の構図だ。
「仕方ないねぇ。
ーーランディ・アートネット辞令了解。
速やかに本部に帰還する」
「あぁ、良かった。
それじゃ僕、もう一人にも声かけなくちゃいけないんで、これで失礼しますよ」
ランディが『辞令』に応じたのを見てクリークは安堵の息を漏らすと、唐突にそう言い出し、ランディの脇を抜けて走り出す。
そんなクリークに声を掛けようとランディが振り返ると、既にクリークの姿は何処かへ消え去っていた。
「さて・・・平穏な日常も終わりってとこだね」
葉巻を指で弾いて放り捨てながらランディが小さく笑う。
ーーそしてその日、アスピークタウンにその店を構えていた宝石ブローカー・ランディは人知れず、忽然と姿を消したのだった。