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「ーーお疲れ様です、ランディさん」
その時、ランディの背中から声が聞こえた。
「ーーいつからいたんだい、クリーク」
この場にはランディとアリスしかいなかった。
そのアリスがいなくなり、今ここにいるのはランディだけになったはずだ。
そしてランディの背後には二つの墓、そして崖である。
そんな状況下で聞こえてきた声に、ランディは驚いた様子もなく崖側の方へ振り返る。
するとそこにはいつの間に立っていたのか、薄緑と白のストライプ模様を施したマントを羽織る優男が立っていた。
背は長身のランディと比べて、一回り、二回りほど小さく、見た目かなり若そうな美少年だ。
ざく切りに切った柔らかな金髪は耳を覆い隠し、肩ほどまで伸びていて、見ようによっては少女のようにも見えなくもない。
「あの嬢ちゃんにも気配を悟られないなんて、流石じゃないか、クリーク」
「いやぁ、自分、影が薄いんで」
クリークと呼ばれたその青年は頭に手を遣りながらランディの言葉にそう答え、穏やかな笑い声を上げる。
「シーブス・タウンで宝石ブローカー・・・だって?
あんたには似合わない仕事だね」
「やっぱりそう思いますか?
アリスさんに情報をながせればそれで良かったんですけど。
ランディさんが宝石商という『役柄』だったので、それを知る者としてリアリティを持たせたつもりなんですが」
「役柄だなんて失礼な奴ねぇ。
あたしは本当に宝石好きなんだよ」
クリークという名。
それはアリスがランディ、そしてゼニスの事を聞いたという人物である。
その人物が今、こうしてランディの前に姿を見せている。
「ーー手を出すな、って指示をもらったから、今も、仇討ちに行く時も手は出さなかったけどね。
仮にも『星頂守護機関』が黙って見過ごすなんて、体裁的に大丈夫なのかい?」
「いえいえ、問題ないですよ。
この事は元老院の御沙汰でもありますから。
今回アリスさんには『白銀の銃剣』を手にいれてもらえればそれで良かったんですよ」
「でも『白銀の銃剣』を手にいれることは、あたしたちの最重要課目の一つだろ?」
「『白銀の銃剣』は『災厄の血』を持つ者にしか使えないですからね。
僕たちが手にいれてもそれは宝の持ち腐れというものです」
「まぁ・・・どちらにしても、あのカラミティ・ジェーン相手にあたしらだけじゃあ、流石に不安だしね」
「そういうことです」
笑顔を絶やさずに丁寧な言葉で話すクリークと、会話のやり取りをするランディ。
ランディが再び懐から出した葉巻をくわえると、クリークが待っていたように動き、持っていた小さな着火器で火を付けた。