P103
「ーーこのまま旅に出るのかい」
金貨を受け取ったのを見ると、ランディはアリスの背中に訊いた。
アリスは何も答えない。
「『災厄』はあんたが自分の手で振り払ったんだ。
あの町にはらんでいた『災厄』は消えたんだよ」
アリスはふとランディから目を反らした。
「後はーーあたしがこの町から消えれば、きっとしばらくは上手くやっていけます。
あとは町の人たち次第・・・かな」
「あんたがいたら、また町に『災厄』が降りかかるってのかい?」
「・・・少なくとも、あたしはもう星頂人を手に掛けた大犯罪者です。
あたしがあの町に居続ければ迷惑がかかります」
「それは・・・そうかもね」
ランディが顔を俯かせながら頷く。
パリストが今際の際に言っていた『星頂守護機関』ーー。
星頂人を手にかけた事がアリスの所業と発覚するまでいくばくかの猶予はあろうが、ゆっくりしている余裕がないことは本人が知っているようだ。
アリスは立ち上がった。
「もし『守護機関』の人たちが来たら、あたしに遠慮しないで下さい、って町の人に言っておいてくれませんか?」
「・・・アリス嬢がそれでいいんなら」
「それとアシュフォードさんやマリアの件は黙っておいた方がいいと思います。
仇は取りましたし・・・これ以上、事を荒立てない方が利口だと思いますから」
「・・・わかった」
「宜しくお願いします」
深く一礼して託したアリス。
そしてアリスはそのまま歩き出し、ランディの脇を通りすぎた。
「一つ、聞いてもいいかい」
振り向かずランディが語りかけると、アリスが足を止めた。
お互いに背を向けた状態で二人は佇む。
「これからーーどうするつもりなのさ」
恐らくアリスはもう町に立ち寄ることなく再び旅に出るのだろう。
その旅の向かう先がどこなのか、興味本意かどうかは分からないが、ランディはアリスに訊いたのだった。
「そうですね・・・また、人探しかな」
「へぇ、誰を探すんだい?」
「お母さん・・・だった人です」
「だった?」
「そう。
だった、人です」
アリスはそれ以上何も言わなかった。
またランディも何も聞かなかった。
お互いに背を向けたままーー、
アリスの足音はランディの耳の中で小さくなっていく。
すると葉巻を足元に捨てて火を踏み消すと、ランディは振り返った。
「ーーまた、会おうじゃないか。
アリス嬢・・・いや、『カラミティ・ジェーン』」
既に小さくなったアリスの姿に語りかけるようにランディは呟いた。