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部屋に踏み込んでから数分の出来事。
門番たちのことを含めてもせいぜい十分経った程度である。
アリスは邸内に残る無抵抗の人間を除いて、星頂人を皆殺しにした。
アシュフォードとマリアをなぶり殺しにし、更には町人から上納金を巻き上げようとした悪漢に引導を渡したのである。
しかしアリスの表情に笑顔はない。
彼女の頬を一滴が静かに伝った。
「仇討ち・・・復讐・・・か。
あはは、は、はは・・・何よ、これ。
ただ虚しいだけーー。
気持ちなんて少しも晴れやしない」
顔は笑っていないのに、無理矢理笑い声を上げる。
ーー殺した人間がどんな奴であれ、自分も今、残虐にその命を奪った。
そんな彼女の周りに転がるのは、自ら手を下した屍たち。
それはまるで彼女のこれまでの人生を物語っているようだった。
すなわち彼女に関わった者たちは、等しく同じ末路を辿るのみーー。
「マリア・・・。
おじいちゃん・・・。
ーーごめんね。
・・・あたし、あなたたちのためにこんなことしか出来ないよ」
ティアマトーを握った腕をゆっくり下ろし、そのまま顔も深く沈み落とす。
現代に甦った災厄の血を引く少女は、
自らが招く災厄に呑まれた屍に囲まれて、独り肩を震わせていた。