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「―-次は私の番ね」
バイスとデックの様を見ていただろうマントの女。
変わらぬ冷めた調子の声が静かに響いた。
「おっとっと、ちょいと待ちな、姉ちゃん。
提案がある」
「・・・提案?」
持っていた銃をホルダーに収めたバイスが、
両手で制するようにして突然切り出した。
トーンは変わらないが怪訝そうな女の声。
「姉ちゃん、俺の女になりな」
長身の身体をやや前傾に折り、
未だ見えぬ素顔を覗き込むようにしながらあっけらかんと言い放った。
「・・・突然何を言い出すのかしら」
「言葉通りだよ」
「・・・私の顔も見ずに、
ましてこれから勝負する相手にそんなこと言うなんて、節操ないのね」
「見なくても分かんだよ。
そのマントの奥にはきっと俺好みの女の顔が隠されてるってな」
「あら、見たらガッカリするかもしれないわよ?」
「あんたの声・・・それは間違いなく『美人声』ってやつさ。
間違いねぇ。
顔だけじゃなく身体も俺好みそうだしなぁ」
何を根拠にそんなことを言うのか。
これまでの経験、そして彼が出会ってきた女性の特徴と照らし合わせているのか。
あるいは身体については先ほどわずかに覗かせた両脚からそう判断しているのか、
語る時の視線は下半身に向けられていた。
「俺の女になるんならこの勝負はここで終わりだ。
賞金も山分け。
・・・どうだ?悪い話じゃねぇだろ?」
「お、おい、てめぇ!
なんだよそりゃあ!
何を勝手にルール変更してんだよ!」
「あんたは負けたんだよ。
だから勝手にルール変更しようがあんたは口挟む資格はねぇんだよ」
「ぐ・・・っ」
突然のルール変更・・・というよりは交渉に、
たまらずデックが口を挟むが敗者に口なしとばかりに一蹴されてしまう。
命に別状はないとはいえ、
重傷には変わりない傷を負っているデックもそれ以上は絡めずに押し黙ってしまう。
「無駄な殺し合いは避けて、二人で山分け・・・か。
確かに平和的な解決法としては悪くないわね」
「だろ?」
「でも・・・却下ね」
「なに?却下だと?」
「だって、山分けするより独り占めしたほうが断然お得じゃない」
マントの女が再び内より銃を取り出す。
右手に握ったそれをバイスへと向けて、
あっさり交渉は決裂だという意思表明を明らかにした。
勝負は続いている。
しかも今は自分が撃つ番である。
ここで残った一人を倒してしまえば賞金は当然独り占めなのだ。