5
「眩しいだろ!バカ千春!」
思わず怒鳴った。
そして、すぐにハッとした。
…今のは完全に“素”だ。
でも、たぶん大丈夫。
だって、相手はあの千春。
きっと、いつものようにヘラヘラ笑って、適当に謝るんだ。
…だって、千春は人気者だから。
「…ぁ、ごめん。……言えば良かったね。頭回らなかった。」
なんて、しんみり言うのはらしくない。
「……。」
まだ喋りたく無い。
でもさ。気になるよね?
一応、千春は友達…でいいんだよね?
俺の一方的な思い込みかもしれないけど。
「……藍琉?何?」
不思議そうな顔する千春。
…見たこと無い顔。
いつもおちゃらけてて、軽くって明るい千春、らしくない……なんて言うの?…マジな顔?
「…変。」
一言、そう言った。しかも、単語。
不機嫌丸出しで、ガキ臭い。ダサい。
…でも、コレが俺だから。
「んー。そうかもね。ごめん、ごめん!俺らしくもなかったね!」
いつも通りの笑顔。
いつも通りの声色。
…はぐらかされたのかな。
「今日の千春、意味わかんない。」
突如、いつも通りの彼に戻った千春にイラついて、俺はそう吐き捨てた。
「…つまらない?」
千春は、自嘲気味な笑顔を見せながら、そう言った。
「…は?」
「今日の俺は“つまらない”?そしたら、俺から離れて、他へ行くの?」
「…意味わかんない。」
「藍琉、その言葉使いすぎだよ。気づいてる?」
千春は笑顔で話す。
いつも笑顔だ。
でも、今日の笑顔は大キライ。
…そんな俺みたいな顔で笑わないで欲しい。
鏡の中の俺はいつも自嘲気味に笑ってる。だから、俺は鏡を見たくない。
…千春の顔、見たくない。
「はぐらかす時に使うんでしょ?“意味わかんない”って。」
…見たくない。
視聴覚室は防音対策がしっかりとされている所為か、凄く静かで。
千春の声は、何かに邪魔されることも無く、俺の耳まで届く。
「藍琉。あのね。俺、藍琉の事、大好きだよ。」
いつもと同んなじ事を言う。
でも、いつもと調子が違う。
「…嘘。」
「本気だよ。愛してる。」
…なんでそんな甘い声で言うのかな。やめてよ。
「好きなら嫌がる事、しない。」
早く嘘って言って欲しい自分がいる事を俺は認める。
こんなにイラついても、こんなにバカにされても、俺にとって千春は結構大事。
千春は、グッと顔をこわばらせた。
…傷ついた顔。
「…そうだね。ごめん。……まさか、そんなに嫌われると、思わなく、てっ…さ。」
そして、グルンッとすっごい勢いで後ろを向いた。
チラッと見えた顔。
「……泣いてんの?」
「…カッコ悪っ。」
鼻をズッと啜りながらそう言った千春の声は、やっぱり鼻声だった。