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「ここ。入って?」
と、千春が指すのは、視聴覚室。
「は?なんで?え、ヤバくね?」
サボる=屋上orランチルーム、だと思っていた俺は、軽く混乱する。
「ヤバいって、何が?」
「いや、だって勝手に入っちゃダメだろ。」
しれっとした顔で聞いてくる千春にビックリしながらも、俺は考える。
特別教室に勝手に入るのはヤバいだろうし、鍵だって開いてないはずだ、と。
「そりゃ、許可なく入ったらマズいんじゃない?てか、鍵掛かってるし。」
「じゃあ、無理じゃん。」
「いや、鍵あるし。」
いつもとなんら変わらないあどけない顔で、千春はズボンのポケットから視聴覚室の鍵を出す。
「…なんで持ってんの?」
「副担任先生に、視聴覚室の鍵が欲しいって言ったら、貸してくれた。」
あの、色ボケババァめ!
50歳の癖に、高校生に色目使うとは恐ろしいっ。
「…なんで視聴覚室なわけ?」
「だってこの部屋、音漏れないからコソコソしなくていいし、カーテンあるから、外から見えないし、サボるのに打って付けじゃん。」
そう言いながら、千春は鍵を開け、俺の腕を引いて力ずくで視聴覚室の中へ引き入れると、内側か鍵を掛けた。
「…マジでサボんの?」
比較的、真面目な俺としては、なるべくサボりたくない。
「アタリマエ。…藍琉もカーテン閉めんの手伝って。」
せっせとカーテンを閉める千春には迷いが無いらしい。
お1人でおサボりください、とは言えない俺は渋々カーテンを閉めた。
全部閉め終わると、真っ暗になった。
目が慣れてない所為もあるのかもしれないが、本当に右も左もわからないレベルに真っ暗で。
「…千春?」
不安になった俺は、千春の名前を呼ぶ。
出て行ってるはずがない。頭ではわかっているが、怖い事には変わりない。
「ねぇ。千春?……千春!」
返事は無い。でも、千春はここにいる。
って事は、俺はからかわれているのだろうか。
プライド的に、この程度の暗闇でビビるのはカッコ悪いから嫌だけど、そんな事を気にして我慢出来るほどの余裕は無く、俺は何度も千春の名前を呼ぶ。
「千春!千春!ねぇ!どこ?」
もう、いくら呼んでも無駄だから、千春が飽きるまでしゃがんで待とうかな、と思った時、フワリと後ろから抱きしめられた。
ほんのり香る甘い匂いに、千春だとわかる。
「…どーしたの?藍琉?」
意地悪く、そう聞いてくる千春に、不思議とそこまで腹は立たなかった。きっと、安心感の方が強かったのだろう。
「………。」
それでも、プライドを傷つけられた事には変わらず、俺は口を聞きたく無かった。
「あは!拗ねてんの?可愛いっ!……ちょっと、待ってて。電気付けてくる。」
そう言って、千春は俺から離れた。
俺は慌てて振り返ると、千春がいるであろう所に必死で抱きついた。
「え?な、何?」