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「聡!あのさ、昨日の観た?あれ、ヤバかったよな?」
俺は、朝、教室に入るとすぐに聡の席へと向かう。
もちろん、リュックなんて担いだまま。
…竹内はまだ来ていない様子。
「…藍琉。挨拶が先だろ。おはよう。」
ただでさえ仏頂面なのに、煩いと言うように眉間をシワを寄せ、そう言ってくる。
「あー、おはよー。」
正直、俺はこの挨拶が嫌いだ。
だって、なんか仲のいい友達と特に仲良くないクラスメイトを区別するみたいだから。
まぁ、だったら全員に挨拶すればいい話なんだが、チキンな俺がそんな事出来るはずがない。
だいたい返してくれなかったらどうするんだ。…昔みたいに。
「それより!昨日の、観た?」
何も考えて無いような笑顔を浮かべる。
“作る”って言った方が正しい気がしなくも無いが、それだと聞こえが悪い。
「それよりじゃないだろ。…観たよ。」
聡は、ため息なんか付きながら、そう言ってくる。
人の気も知らないで。
聡のそう言う年上ぶってる所、大キライ。
俺は、そう思いながら、満面の笑みを見せる。
「あれ凄かったよねー!あんなに火薬使ってスタジオ大丈夫なのかな?」
「さぁ?平気なんじゃね?ヤバかったら使わねーだろ。」
「えー。でも、ババババァーーン!ってなって、凄かったじゃん!」
以下にも興味無さそうな顔で、しかも馬鹿じゃね?って感じに話の腰を折られると、流石に耐えるのはキツイよね?
今日の聡は面白くないし、他所へ行くか。
そう判断した俺は、リュックを置きに自分の席へ行く。
リュックを机の横にかけて、チラリと聡の方を見てみれば、聡は何事もなかったかのように本を読んでいた。
…俺は必要ないらしい。
俺は迷わず、千春の席へと向かった。
千春の席には相変わらず、何人もの男子が集まっている。
「何、話してんの?」
俺は、さり気なく輪に入り込む。
「あれ?藍琉じゃん。…聡はいいわけ?」
輪の中心で1人イスに座っていた人気者の千春は、ニヤリと笑って聞いてくる。
「あー、いいんじゃない?」
ニタニタ笑ってても美形な千春に、俺はあっけらかんとそう言いながら、知〜っらないっと言うように小首を傾げてみせた。
「藍琉が離れたら、アイツ、ヤバいんじゃないの?」
「えー。だって、鬱陶しそうな顔されたし。」
「こんなに天使なのに?」
千春は終始ニタニタと笑っている。
「天使って…。」
反応に困ってると、千春は
「うん。藍琉は、天使で俺の嫁♪」
なんて、もっと反応に困る事を言って来た。
「藍琉は、可愛いね〜。早く結婚しよ?」
一応言っておくが、ここは共学だ。しかも、千春も小さい方で、俺と3センチしか変わらない。
「千春、からかうのはいい加減に…」
「そうだ。藍琉、1限サボろ?」
俺の言葉を遮り、千春は俺の腕をとる。
突然の出来事に、俺は当然困惑する。
だけど、人気者に楯突く勇気なんか持ち合わせていない俺には、大人しく流される道しか無い。
…まだ、竹内の顔見てないんだけど。
なんて、言える訳がなかった。