6=高校生活&大変。その2
「ぬぉっ!?」
咄嗟に持っていたバッグを盾にし、木刀を受け止める。中身はノートとお弁当と筆記具のみだけだから軽い。軽い故に衝撃を受け止め切れず、バッグを落っことしてしまった。
「フハハ!我が聖剣の前に、リヴァイアサンの鱗で出来たそのバッグも意味を成さぬ!」
「いや、普通の素材だっつの」
一度後ろへ飛び、濱野から離れる。何とか痛い目にあうのは避けられたが、バッグで木刀を受け止めていた手がビリビリする。凄い威力だ。
そこから伺えるのは、向こうは本気だって事。
「……なぁ、止めにしない?いつか絶対どっちか怪我するって」
濱野に勝負の終了を持ちかける。
この変な勝負は今日が初めてでは無い。具体的には忘れてしまったが、高一の時に出会ってからいつの間にか魔王扱いされ、このような勝負が一ヶ月に三回ペースで行われている。だからこそ分かる。早い所止めなければ保健室行きだ。
「フフフ……おじけづいたか……魔王の名も堕ちたものよ……」
「だからさぁ……どっちか怪我する前に止めようって言ってんの」
「えぇい問答無用!!」
止める気は無いようだ。少しズキンと頭痛がしたような。
とりあえず距離を取れば何とかなる。隙を見て教室に退散しよう。あ、靴履き替えてなかった。
「ハァ……」
少しうつむいて、溜め息を小さくこぼす。再び顔を上げると、濱野が剣道にしては妙な構えで木刀を持っていた。
あの構えは……槍投げ?
「グングニルッ!!」
そのすぐ二秒後、物凄い勢いで木刀が僕の方へと投げられた。オイ、なんで剣から槍に変わるんだよ。てか木刀を投げるって、剣道部員的にはどうなんだ。比較的マジで。
「って、わあぁ!?」
反射的に飛んで来た木刀を蹴っ飛ばす。剣先を蹴り、木刀は柄の部分から地面にぶつかりカランコロンと転がりながら、廊下で動かなくなった。
良くも悪くも濱野との勝負の度、反射神経が鍛えられているような気がする。今朝かて自分の事ながら驚かされた。
濱野は木刀を投げた姿勢のまま固まっていた。
「なん……だと……!?我がグングニルをたった一蹴りで……やはり魔王サタン、恐ろしい奴だ!!」
「あぶねぇだろが!剣道部員が木刀投げつけんな!つーか木刀は使用禁止じゃなかったのか!?」
「木刀では無い!魔の宝物庫にて封印されていた伝説の刀、菊一文字だ!」
体育倉庫から持ち出したのかよおい。木刀を投げつけた件についてはスルーかよおい。
あ……今あの木刀、廊下に転がってんだった。
「……没収っ!」
「なっ!?貴様ぁ!レーヴァテインを奪う気だな!?そうはさせん!!」
色々変わるなその木刀。剣から槍から刀まで。あぁ、そんな事考えんじゃない。濱野より先に木刀を取らねば。
言っても、僕のすぐ近くに転がっているから歩いてでも濱野より先に着きそうだが。
「はい、取った」
案の定すぐに取れた。濱野が必死に走ってはいるが、もう木刀は僕の手に……
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
「うがぇっ!?」
いきなりの衝撃。なんてこった。まさかタックルしてくるとは思わなかった。地面に勢い良く倒れ込む。
「フハハ!!取り返したぞ!!」
木刀から手を離してしまい、再び濱野の手中へと納まってしまった。
「さぁ!今度こそ覚悟だサタン!!」
こっちに向かって木刀を振り上げる。避けたい。避けたいのだが、タックルの影響で頭がガンガンと痛む。呼吸がしづらい。
「うぁ……!」
もう彼は目の前に。くぅ……皆勤賞とはバイバイビーなのか!?ぎゅっと目を瞑った。
彼の木刀が僕を殴りつけ、そのまま気絶した……かと思われたが、いつまで経っても木刀が降ってこない。
気になって目を開くと、彼の背後に誰かが立っていた。
「貴様……選介様に何してんの?」
「な、な、なぁ!?」
濱野の持つ木刀をがっしり掴み、動かせ無くしている女子生徒。それも良く知っている顔だ。
「選介様のお顔やお体に傷でもついたらどうするつもりだぁ!?あぁ!?」
極道のような凄まじい迫力。ドス黒さ感じるオーラ。そして僕に対して物凄い忠誠心。
この娘、「演劇部」の「犬飼さん」だ。
「あ、いや、その、あの、でも……」
随時自信満々そうな表情をしていた濱野の顔は蒼白になっている。こんなテンパった彼は久し振りに見たような。と言うかもう素が出ているぞ。
「でも、あの人は魔王で……」
「ゴチャゴチャ言わんと早急に教室戻れやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「は、はいぃぃぃぃ!!」
犬飼さんの迫力に負け、木刀片手に逃げ出す濱野。僕には勝てて女性に負けるとは一体なんなんだお前は。攻められるのに弱いのか勇者様。