4=通学路&騒動。その3
それからは抱きつく繭美をそのままに、田中と他愛も無い話をしながら学校へと向かう。
「リッスントゥミー!この前カフェでよぉ!ベリーキュートな女の子がいたんだよ!」
「口説いたのか?」
「ノー……話かけてもシレッとしてるからさぁ……ありゃあ、お嬢様って奴だぜ!」
本当にコイツは女性に目が無い。可愛い人を見つけたら猛烈アタック。事実、繭美を最初に目にした時もナンパしてたしね。まぁ、繭美は断ったけど。無言のグーパンで。
それに付き合ったとしても一ヶ月も保った事は無い。中学三年時点で六人の女性と付き合って失恋している。
ただ、女に軽い奴かと思われるが、結構純情派。フラれた時は僕の家来てわんわん泣いていたもんだ。軟派なんじゃない。一目惚れし易いだけ。
「バッド、俺は諦めずにもう一度話しかけた訳よ!」
「ほぉ。結果は?」
「えー……「何なのですか?気持ち悪い。あと英語下手クソですわね」って言われた……」
ボロクソ言うなその人。相当ダメージ受けただろうな田中。その話をした瞬間、少しうなだれている。
「ダムッ!あの女、性格悪いぜ!あんな女ドMにしか好かれねぇーっての!」
なんだよその負け惜しみ。SM視点で捉えるのをやめろ。
「ドMって言えば……おにぃって、ドMのマネ上手いよね!」
「はい?」
さっきまで黙って僕の腕に頭こすりつけていた繭美が口を開く。開いたは開いたで何言ってんだこの娘?比較的マジで。
「……繭美さん?」
「だって普通に縛るのは面白く無いからドMの人っぽくして!って、お願いしたら凄い上手いんだもん!ゾクゾクしちゃった!」
あぁ……一昨日の奴か……いや、拒否はしたよ?でも「しなきゃもっときつく縛るよ!」って黒い笑みで言われたから想像だけで仕方なくやっただけだからね?
……結局、繭美の興奮を高めただけでぎゅうっときつく縛られたけど。
「……その話、詳しく聞かせて頂こう」
「オイ」
聞くなよ田中。一応、繭美の性癖とか僕と何しているかは田中も知っている。
「え、田中さんには言ってないし」
「ワッツ!?」
あ、まだ邪魔された事根に持ってんだ。田中、鳩が豆鉄砲食らったような顔しているぞ。
「てか、田中さんには話しかけて無いし?私、おにぃと話してたし?」
「え、でも、ドMの……」
「田中さんの話で思い出しておにぃと喋っていただけだし?というか私、「田中さん聞いて」とか言いました?」
「……ソーリー……」
「そこは日本語で謝って欲しいかなぁ?」
「すいません」
怖い。ゾクッとした。繭美を怒らせると精神的にくる物があるからなぁ……サディストだし。
僕は怒られた事ないけど、別で怖いんだよね。怒られただけの田中は幸せ者かもしれない。あ、殴られたっけか?
「あ、繭美さん。中学校見えて来ましたよ」
顔面蒼白の田中と僕の母校であり、繭美の通う中学校を指差し伝える。
「えー……もう着いちゃった?」
まだ足りないのか、僕の腕を掴む力を強め、少ししゅんっとした表情になる。
「あー……家に帰ったら、ね?」
繭美を行かせる為とはいえ、何か来る物があるなぁ……帰ったら覚悟しよう。
「うん……分かった」
やっと抱きついていたその手を離してくれた。何だか、学校へ行きたくないって喚く子供の世話をしているようだ。
「じゃあ、行ってきまーす!」
さっきまでのが嘘だったかのように、元気いっぱいで校門へと向かう繭美。
「行ってらっしゃい」
僕も、やれやれといった具合に妹を送り出す。繭美は、他の生徒達と混ざって見えなくなった。
「ハハハ……全く、あの娘は……」
何だかんだはあったものの、僕は妹から元気を貰っている。やっぱり兄妹だなぁって思える瞬間。
あの笑顔はある意味、魔法なのかもしれないね。元気になれる魔法かな?……少し恥ずかしい事考えたなぁ……
さて、帰ったら覚悟しときますかね。比較的マジで……ね?
「……ヘイ。俺ってさぁ、いない方が良かったくね?」
あ、田中の存在忘れてた。てか、電柱の影でいじけるなよ。
「いや?そんな事無いと思うよ?つーかどうでもいいから早く行こうよ。遅刻するぞ」
「何かさぁ……お前もお前で俺の扱い酷くね?」
終始イジイジモードの田中をそのままに、僕達二人は高校へと再び歩き出した。
そういえば繭美、今頃弁当覗いてんのかな?まぁ、この際どうでもいいか。