1=物語&開始。
誰かが言った。一度切りの人生、楽しく濃い物にしよう。
対して誰かが言った。安泰こそ至高。目立たず、静かな人生を送れ。
恐らく大抵の人は前者を選ぶだろう。有名になりたいのは当たり前だし、楽しい事はやりたい。何も無い人生なんて損している。
しかし、後者の考えにも一理ある。有名になれば当然、妬みや中傷の対象になる事は免れ無い。静かに暮らすと言う事は敵を作らず、精神的にも安泰した暮らしが出来ると言う事。それを幸せと取る人もいるだろう。余生を謳歌したい高齢の人とかは特に。
僕はどっち派だと聞かれたらどうしても迷う。安泰を望んでも、どこかで非日常を望む自分が見え隠れしている。今日は何を食べようか、そんな感覚だ。
早い話、暇が苦手と言う訳ね。
ただねぇ、今の状況では僕は後者、安泰を望むよ。比較的マジに。
あと思う事がある。有名になりたいとか安泰な暮らしを望むとかは状況によると思うんだよね。今の僕みたいに。
今の状況を簡単に説明すると、制服着用の元、自室のベッドの上にて両手首足首を縄できつく縛られ、体育座りの姿勢のまま身動き出来ない状況にある。これのどこが安泰な暮らしだ。
どうしてこういう状況に陥ったのか、元凶は僕の背後にいる。
「ハァ……ハァ……良い匂いだよおにぃ……フゥー、フゥー……」
「……繭美さん。鼻息が当たっていますよ」
「当ててるの……はうぅぅ……」
背後から抱きしめ、一心不乱に僕の首筋に顔をうずめて匂いを嗅ぐ少女。この娘は俺の妹の「繭美」だ。
中学二年生。僕とは三歳離れた唯一の妹なんだが、どこで性格を間違えたのか、緊縛癖と匂いフェチの上にブラコンと来た。好きな相手を縛り付け、匂いを嗅いで興奮する。これはもう変態通り越してサイコだね。比較的マジで。
それにその好きな相手は兄貴であるハズの僕と来た。僕の何が良いのやら……あ、匂いかな?
「スゥー……ハァ……あぁ、もっときつく縛ったら……匂い、溢れるかな?」
いやいや僕はアロマじゃないですからね?というか既に痣出来るくらいまで強く縛られていますからね?
「えー……出来ればもう止めにして貰えませんか?時間も時間ですし……」
時刻は午前七時半を指していた。共に学校に行く準備をしなければ遅刻確定。皆勤賞狙っているんですよ僕。
……正直六時頃に起きて朝食済まして以降現在まで縛られっぱなしなもんでキツいんですよね。比較的マジで。
「ん……もう少し……」
一度熱の入った物はなかなか冷めない。これじゃあマジに遅刻する。
「……帰って来たら好きなだけ相手しますから……」
背に腹は変えられまい。自分から体を捧げるようだけど、遅刻は嫌だ。プライド的にね。
「本当!?」
目をキラキラ輝かせながらぎゅうっと抱きしめる。力を緩めてくれ痛い。
「ハイ……だから拘束解いて下さいよ……」
「分かった!おにぃ大好き!」
意外とあっさり縄をほどく。あんなにきつく縛っていたのに良くほどけられるな。指の力凄いだろうな。
「イテテ……ほら、準備して下さい。お弁当は台所に置いてますから」
解放された手足をブラブラ振る。少し青紫色に変色してしまった。動かすとズキズキ痛む。
ある程度痛みが引いてくると、机の上のバッグを手に取った。教科書は基本、学校に置いているから準備は数秒で済んだ。
「繭美さん。準備は済ましてますか?」
「うん!もう玄関に置いてるよ!」
分かりきってはいたが、一応聞いてみた。
それ程さっきのアレをしたいのか、準備は昨日の時点で済ましているんですよこの娘。
「それじゃあ弁当取りに行ったら行きますか……」
台所へ向かう僕の後ろを、子供のカルガモのように付いてくる繭美。鼻をスンスン言わしている辺り、まだ欲求不満のようだ。帰ったら覚悟しよう……比較的マジにね。
自己紹介が遅れた。僕の名前は「梶尾 選介」。本歳十七の高校二年生。お気に入りは紅白のキャップ。自覚している性格は女性に対してちょっと無口なのと、お人好し。以上。
そんなこんだでこれは、僕の周りで起こる日常と非日常を描いた物語である。