「暗い夢」サイトシリーズ① 「CM」 - 6
最初に、この作品はフィクションです。
創作です。
実在する個人・企業・団体とは一切関係ありません。
読者の皆さんは影響を受けて犯罪行為などに走ることなく、
正義と平和を愛する一国民として行動してください。
「トントン」というドアをノックする音がした。
続いてドアが開き、武蔵の母親である佐多紗江子がベッドの上の武蔵に声をかける。
「武蔵~、もう起きないと間に合わないわよ。もう高校生なんだから自分で起きなさいよ。それにぃ、また電気つけっぱなしで寝てぇ。電気代高いんだからね!」
「ん~、うるさいなぁ。勝手に部屋に入るなっつったろうが!」
「何よ、せっかく起こしてあげてるのに、全く。早く朝ごはん食べて、仕度して学校いきなさい。誰に似たのかしらねぇ・・・ぶつぶつ」
「ん~」
紗江子はそのまま二階の武蔵の部屋から階段を下りていった。
武蔵が寝ぼけた顔で目をこすりながら、時計で時間を確認する。
もうそろそろ準備しないと間に合わない時間だ。
だが、武蔵は特に焦ることなくゆっくりと階段を下りてダイニングに向かった。
「昼食代は前渡した分残ってるわよね?」
「ああ」
「本当は弁当作ってあげたいんだけど、時間なくてごめんね。」
「嫌、いい、いらない。逆に笑われたりするし。」
「あ、そ・れ・と、昨日の夜お父さんが二階からドンドン音がしてうるさかったって言ってたわよ。もう出かけたけど。」
「そんな音出してない!」
「そう?」
「ったく・・・」
紗江子が用意した朝食を十分に咀嚼しないまま早めに流し込み、寝癖を直して歯磨きをしていく。
洗面所の鏡に向かい、口の中の歯磨き粉を下の洗面台に吐き出して口をゆすいだあと、自分の顔をじっと見る。
代わり映えのしない自分の顔。
中学のときは、これでも自分の顔が平均より少しはかっこいいはずだと考えていたが、特に女子と付き合ったりしたこともない。
ふと、視線を鏡に映る自分の目のあたりに向けると、一瞬黒い"あざ"のようなものが見えた。
(おかしいな、どこかで打ったか?)
何度かまばたきをしていると、その"あざ"はすっと消えて見えなくなった。
特にそのことに気にすることもなく、身支度を済ませた。
また今日もクソみたいな日常が始まると、武蔵は思った。
紗江子が「いってらっしゃい」と声をかけたが、いつも通り無視して家の外に出る。
そしていつも通りスマートフォンを使って音楽を聴きながら登校する。
この日は空が曇っていたが、雨が降るような感じではなかった。
歩きながら、今日は斉藤と鈴村たちを避けてどこで昼食を取るか考えていた。
学校に着き、かばんを机の横にかけて授業開始を待つ。
武蔵の席は教室の窓側で後ろの方だ。
いつも退屈な授業はほとんど聞いておらず、ノートの端に何かのキャラクターの絵を描いてみたり、教師の目を盗んで外を見たりしている。
試験で赤点さえ免れるよう試験前だけがんばって勉強すれば、けちをつけるのは担任だけで親も思春期の息子に文句は言えなかった。
成績も優秀とはいかないが、中の上はキープしている。
クラスメートたちが朝のHR前に談笑している。
最近のテレビドラマの話、ゲームの話、恋愛の話。
どれも自分にとってはクソだ。
高校生にもなってそんな話しかできないようじゃ、将来も大した人間にはなれないだろうさ。
武蔵は時折、そうやって周囲の声を聞きながら周りのクラスメートたちを心の中で見下していた。
武蔵は日課である、世界史の教科書閲覧を始めた。
古代ローマ帝国の暴君ネロ、ナチスドイツを率いて世界と闘ったヒトラー、彼らの行いは世界中で非難される対象だ。
異教徒迫害、ユダヤ人の大量虐殺。
だが、みんな彼らの一面しか見ていない。
武蔵は思春期にありがちな、他人とは違うモノの見方ができる人間を自負しており、世界史の中でもっとも悪名高い歴史上の人物を崇拝しているような節があった。そして彼らの過激な思想や言動に傾倒しつつあった。
それが「暗い夢」サイトの「クライムマイレージ」と出会ったことで拍車がかかったのだ。
クラスメートの連日のいじめ、いじめの事実を知っても生徒たちと関わりあいを持つことを避けてなぁなぁで済まそうとする教師への不信感、さらに道徳を説いてまわる大人たちでさえ他人を差別し、いじめに加担し、平気で犯罪行為を行い人の命を奪うという二律背反の内容の連日のネットニュース。
それらによって、周囲のクラスメートや社会を侮蔑するに至った。
自分は彼らのような愚かな人間ではない、自分を理解してくれるマイノリティ(少数派)こそが自分を正当に評価してくれる。
それこそが、自分が生きることの意味、価値ある人生だと。
自分を評価してくれるマイノリティこそ、「クライムマイレージ」のユーザーやサポーターだと。
武蔵が世界史の教科書を眺めながら思いを巡らせていた時、担任が来てHRが始まった。担任の櫻井が暗い顔をしながら、朝の挨拶をして生徒たちに語り始めた。
「えーと、どういったものか・・・。あのな、みんな。よく聞いてくれ。実は斉藤と鈴村がちょっと家から居なくなってな、ご両親から連絡があったんだが、警察にも捜索願を出されていて二人を探しているんだ。」
「えー、うそー。」
「駆け落ちなんじゃねーの?」
「なんでそう思うんだ?松井、あの二人は付き合ってたのか?」
「そーですよ。知らないの櫻井先生だけですよ。」
「そうか、じゃあまだ分からないな。二人ともご家族には何も言わずにいなくなったらしいんだ。ま、警察が捜索してるから心配するな。二人の連絡先知ってるやつ、むやみにあいつらのスマートフォンに連絡するなよ。ご両親と警察だけが連絡入れるようにしてるから。もしお前らの方にあいつらから連絡来たら、すぐ俺か警察まで連絡しろ、いいな。」
「はーい。」
教室中が静まり返ってしまった。
担任の櫻井がそのまま続ける。
「あ、それと、こんなときだけど明日から転入生が入る。
名前は『廣田亜里沙』っていう女子生徒だ。
ちょっと特殊なお家の事情でな、来れない日とか結構あるけど
課外授業とか特別プログラムで単位とらせて卒業させるから。
みんな、仲良くしろよ。」
「はい。」
そしてHRが終わり、一限目の授業が始まった。
武蔵はさきほどの担任の話を聞いても何とも思わなかった。
シリーズ①の「CM」の頭と尻はできてますが、間の流れとかが完全にできてません。なので、連載形式にしてます。
シリーズ②の「MH」のネタは既にかなりできてます。
次は
「暗い無」サイトシリーズ① 「CM」 - 7
になります。
文章力などまだまだ勉強が必要ですが、
よろしければ応援よろしくお願いいたします。