修羅
祈りとはとても無力だ。
神に捧げし祈りは、天高くまで届くことは無く、虚しく地上に響くばかり。
祈りを聞きし神は存在せず、無力な祈りを聞く者は、同じく無力な地上人。
静寂を乱すざわめきは風に揺れる炎のようだ。
炎はやがて大きくなり、風すらものともしない。
刃を掲げ、祈りを受け入れる。
それは、やはり神ではなく、地上人。
祈りは無力だ。
だが、無為ではない。
人の心を動かすそれを無為というのなら、世界すらも無為と言える。
刃を掲げたる地上人。
それは、天に背を向ける覚悟の現れ。
地上人は、存在せぬ神から目を背ける。
神は人を守らず、人は人を救えず。
ならば、愛しきものを守る為に、人は修羅となる。
天高く舞い踊り、神に背を向け、鬼の面を被る。
人を斬り、鬼を斬り、神を斬る。
大地は赤く染まり、大地に立つは修羅一人。
胸に生まれる深淵は、答えのない問いかけすらにも木霊を返さず。
口からこぼれる言葉は、ただ風の前の塵に同じ。
弱きを守り、強きを挫く。
化物と蔑まれようと、鬼の面はただ、心を覆い隠す。
我が選びし道は修羅の道、
たやすく折れぬ心を知れ。
我、華の様に舞い散り、赤き大地に沈む。
愛しきものを守り、か弱きものを守り、強きを挫く。
我もまた、強きもの。
最後の敵は、わが心に宿る修羅。
それでも、我は修羅となり、剣を掲げる。
全ては、愛しきものの祈りが為。
我、祈りを聞きて、修羅となる。