ビッグニュース
初めましての方、はじめまして。知っているよという方、ありがとうございます。大藪鴻大です。
さて、「天使の梯子」シリーズ第二弾、「天使の梯子 ‐FORCE‐」が始まります。この物語の前に、「天使の梯子 ‐FLY‐」という物語を投稿したのですが、そちらを読んでいない方でも全く問題なく読めます。
それでは、「天使の梯子 -FORCE-」の始まりです!
「なあ、ビッグニュースがあるんだが、聞きたいか?」
宿題に取り掛かろうと机に向かっていた僕は、溜息をつきながら、振り返る。部屋に入ってきた兄貴は、いつも決まってニュースを伝える。ただ、今日は“ビッグ”ニュースらしい。
「ペンギンが空でも飛んだ?」
そんな題名の映画があったな、と言った後に気がつく。兄貴は首を横に振る。
「ペンギンが空を飛んでもニュースにはならない。そういえば、そんな感じの題名の映画があったな。」
兄貴はこちらを見ずに、部屋を歩き回っている。いまにも歌いだすどころか、踊りだしそうな様子だった。しかし、この筋肉質の体が踊りだすところを想像すると、何とも不気味な感じがした。
「彼女?」
兄貴は勢いよく振り返り、こちらを見る。顔には勝利の笑みが浮かんでいる。もしかして、違うのか。
「違ぇ。女神だよ、女神。」
何が違うんだ。
「彼女=女神じゃないの?」
「違ぇよ。分かってないな。だから、お前は恋愛ができないんだ。」
今回が初めての人に言われたくない。しかし、勉強机にひたすら向き合い、対人関係を形成するのも苦手な僕よりは、気さくな兄貴の方が可能性があるだろうことは、一応、認めよう。
「女神は彼女の比喩だろ?」
「分かってない。分かってねぇよ、お前は。彼女はいくらでもつくれる。けど女神は一人だろ。」
いくらでもつくれる、というのは驕りではないか、と思うが、今はそんなことはどうでもいい。
「で、どんな人?」
「人じゃない。女神だ。」
「兄貴だって、一人とか言っていたじゃないか。『人』は人を数える単位だ。」
我ながらくだらない、と思っていたら、案の定無視された。それはそれで気に入らない。眉間に皺が寄るのを感じた。兄貴が腕組をして唸る。
「実のところよくわからん。なぜなら―」
「一方的に話しかけただけだから。」
「よくわかったな。褒めてやるよ。」
なんだ、つまらない。そう思いつつ、内心では安堵する自分がいる。
数学の宿題を続行しようと再び机に向かう。が、横からのぞきこまれては集中できない。「早く聞け、気になるだろ?」と言わんばかりの無言のプレッシャーを感じる。
しばらく、わずかに残っている集中力で抵抗を試みたが、城の陥落は目に見えていた。城の外だけではなく、城内からも徐々に反逆者が現れ、王が白旗を振り始める。
「名前は?」
そう言うと、兄貴は再び腕を組み、考え込んだ。いや、悩むところじゃないだろ。本当に彼女なのかよ。
「アイとか言っていた。」
「アイちゃんか。歳は?」
「女の子の年齢をむやみやたらに聞くもんじゃない。だからお前は恋愛ができないんだ。」
兄貴が僕の頭を軽く叩く。女神じゃないのかよ。女神だとしたら一体何歳なんだろう、と思ってみたりする。
「ところで、話は急だが―」
話の流れから、嫌な予感がする。デートの手伝いは勘弁してくれ。心の中で両手を組み、神に祈る。
「CDショップに行こう。」
本当に急だな。