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はい、みなさまおはようございます!
今日は週初め。いよいよ学校に通えます。ただの物体を立派な魔法具にするための技術が学べるのです!とりあえず、この国にある魔法具の学校は私も通うトレシリア学園だけです。
この国、えっとジーバルット王国はそんな大きな国ではないんです。
ですが、海に面しリアス式海岸なため港として交通の大事な拠点の一つを担ってますし、それに加えリアス式海岸のおかげで魔力への結界を張りやすく、魔にあてられていない魚を育てることができるのでそれを特産としてがっぽり稼いでますから、お金は結構あるらしいです。
このくらいの国が魔法具の学校を持っているっていうだけでも珍しいそうです。それも魔にあてられていない魚プレという特産のおかげですね。
フミは、新品だろう真っ白なシャツに青のリボン、それに青のロングスカート。トレシリア学園の制服だ。おや、昨日はしていなかった緑の縁の眼鏡もかけている。
着替え終わると、昨日の残り物のキッシュとスープを温めて食べた。好きなものは二日連続で食べても飽きるどころか喜ぶフミは、やはり昨日と同じようにおいしそうに平らげた。
お皿を簡単に洗うと、歯を磨き、顔を洗う。リュックを背負うと玄関に行き靴を履く、これは昨日も履いていたショートブーツだ。
「行ってきまーす」
一言呟き、ドアを開け、涼しい風を受けながら学校へと向かった。
それでですね、魔にあてられていないっていうのは結構すごいことなんです。この世界、フィミアの世界って言います、では魔力を持っている人だけではなく、魔力を全く持たずに生まれてくる人もいるんです。そうすると、魔力を少しでも持っているものを摂取するとアレルギー反応みたいな症状に陥るそうです。
ですが、フィミアの世界では魔力があふれているそうです。ほとんどのものに魔力が宿っています。というのも、土地、空気に魔力があるから、そこで育まれるすべてのものに魔力が宿るといった感じですかね。
魔力を全く持っていない人、たしか《渡り人》っていうらしいです。どうして渡り人っていうのかは諸説あるらしくはっきりとは分からないんですが。とりあえず、体内に魔力を入れることができないんです。
その渡り人が食事をしようと思うとそりゃ大変で、例えば、野菜はまずその土地の魔力を極限まで抑え、それから野菜を育てます。肉も一緒、限りなく魔を薄めた地で隔離して動物を育てます。そして魚も同じです。
ここで普通、育てたり、作ったりしたものから魔力を取ればいいんじゃないと私も思ったのですがそれは無理なんです。人が魔力を一瞬にして全て取り出すのは不可能です。ですが、塞き止めることは可能です。魔力の流れを塞いでしまうと、だんだんそこから魔力は消えていきます。そして数十年後には無魔力の場所ができます。大変な作業なのでいろいろお金がかかっちゃいます。
とまあ、こんなかんじで無魔力の魚プレは貴重なのです。しかも、無魔力の食材って珍味らしく、ほしがるのは渡り人だけではなく、貴族とか大金持ちとかそんな人もいるんです。だから、プレはとっても高級です。私も食べたことはない。
陸地とちがって、海は結界が張りにくいのですが、リアス式海岸はそれがやりやすいそうです。そのためこのジーバルット王国は数少ないプレの産地として有名です。
はい、ここまでが私をド田舎から来たと勘違いした船乗りのおじさんの受け売りです。
……ぜんぜん違う世界に来たんだなあと実感します。それに、渡り人とか意味深ですよね。渡り人の人に会ったことが無いというと、おじさんが言うには貴族や、王族に多く、一般市民でそのままの姿でいる人はまず、いないそうです。どうやら、無魔力の人たちは髪が真っ白だそうです。でもって、身分の高い人たち以外は、髪を染めて白を大体隠しているそうです。
別に忌避されているわけではなく、その逆でとてもきれいな白なので非常に好まれるそうです。白をそのまま晒していると、捕まって売られてしまうのです。……はい、危険です。ということで、隠している人が多いのです。おじさんも、もし気付いても黙っていてやれと言ってました。奴隷制度のある国はまだあるようです。
……っと、そろそろ学校につきますね。
学校生活か……。魔法具についての期待は大です。だけど不安もあります。
私は人とかかわるのはあまり上手ではなくて。愛想笑いとかは結構うまくできるんですけど、というか、仲良くなりたい気持ちはありますし、話しかけられると嬉しくはあるんです。だから愛想笑いじゃなくて、本心からなんです。
問題は、その後なんです。会話が得意でないんです。私が一人しゃべり続けるのはもちろん駄目ですし、だけどシーンとなるのも不味くて……。でも調節とか難しいし、でもコミュニケーションをとるのには必要事項だけの会話じゃ成り立たないし。
もう疲れるんですよね。だから、一人でいたくて休み時間に本だけ読むようになるとなんとなく疎外されるように……。小5、6でした。もしかしなくても、中学受験の理由の一つでもありました。中学では、やり直したいって。友達いっぱい作って、……。でもあれって無理。 結局、同じように疲れてしまうだけです。
だから……、そんな疲れている自分を知られたくないから、壊れてしまう前にこっちの世界へ。中高一貫校、要は同じメンバーがそのまま上がるんです。もう、一緒にいたくなかった。
これが、私がこの世界に来ることを後押しした理由です。結局、小学校から中学校へ。中学校からこの世界へ。逃げているだけ。情けない話だけど、逃げるを選択したのです。
友達がたくさんいれば、悩みがないわけでもなく、一人でいれば気楽なわけでもない。私は、自分の身の振り方をいまだに決めあぐねている。
一人でいるの?それとも、まだ探し続けるの?
憂鬱になりそうな気分を振り払うように頭を振ると、だんだんと周りが見えてきた。
まわりにも同じ制服の人が一人二人見える。それを見るとトレシリアに通う実感が湧いてきた。
あー、あの人も新入生だったりするのかな?
……友達とか、今はそんなことは些細な悩み。大丈夫、わたし立派なアクセサリー(魔法具)職人になるからね!
――とか言ってみたり、ね。あー、緊張する。