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みなさま、こんにちは。今日もいい天気ですね!
それはさて置き……。あぁ!どうすればこの感動を伝えられるんでしょうか!キラキラと光るもの、柔らかな布で作られたもの、カラフルなひもで編んであるやつ……。
一人の女の子が、色とりどりのアクセサリーが置かれた屋台を前に恍惚とした表情で微笑んでいる。それは、少々行き過ぎな気もするが、年頃の女の子にあったおしゃれへの憧れなのだと解釈していいのだろう。
アクセサアリー類を見るのは、限りなく黒に近いこげ茶色、そんな紛らわしい髪色の少女、フミという。
黒を並べられないと、黒でないことがわからない。この辺では、黒髪の少女はあまり見かけないものだから、紛らわしい彼女も当然目立つ。だが、フミは時折投げつけられる不躾な視線を物ともせず、素直な表情で彼女の目の前に広がるアクセサリーを吟味していた。
――事の始まりは数か月前にさかのぼります。わたくし三日月 文は異世界にトリップしちゃいました。ですが、混乱はあまりしませんでした。
元いたところは日本です。日本の廃村ギリギリの小さな村に住んでいました。そう、運動音痴な私が好む娯楽なんて二次元――っとそうではなく、それとは別に私には混乱しなかった大きな理由があるのです。
私の家の隣は、村に唯一ある小さな神社があります。これが、今となっては神社だったのかどうかも怪しいんですが。とりあえず、神様を祀っているそうです。どんな神様を祭っているのか、詳しくは知りませんでしたし。すみません。あんまり興味ありませんでした。てへっ☆
私にとっては恰好の遊び場でした。これが、また訪ねてくる人も滅多にいないものですから。ええ、好き勝手やりますた。
変わった神社で、山の上にあって階段を上るとまず見えるのが大きな泉です。寧ろ泉の外はそれ以外ほとんど何もありません。重要なのはその泉の中です。テニスコートの半分くらい大きさの泉の中には、神社があったのです。はい。神社があります。何度も言いますが、神社が、ありマス!
なんで?と聞かれてしまうと、私もなんでだろう?というしかないんですが、とにかくありました。えっと、村自体も山の上の方にあって、そこから更に上に神社はあったんです。泉からは絶えず、綺麗な地下水が溢れていて、とっても冷たくておいしいです!飲むと怒られますけどね。実践済みです☆っと、その地下水のおかげで木造の本殿も腐らずにいられるそうです。
泉の深さは神社の屋根が出そうで、出ないってくらいでしたね。深さもあるんで、どのくらいいけるかなーって思って挑戦しました。結局、数回潜るうちに下まで届いちゃいましたが。
水泳だけは得意だったんですよ!えっへん!体重感じないっていうのがいいですね。……で、デブじゃないよ!筋力がないだけで……。体系の割に重いねって保健室の先生に言われて傷ついたことなんてないよ(涙)……何故か泳いだりするのは怒られませんでしたしねー。上達しましたよ。
さあ、それでですね。私の父はそこの管理をしていたんです。事務員みたいなものだと私は思っていたんですけど、違ったんですよ。わたしの父はとても霊力というんですか、魔力かな?あの人なら。そんな感じの力がとても強い人だったらしいのです。それで、その父の魔力?の根源みたいなのがその神社にあるそうです。父と神社はつながっているっていう感じらしいです。
そして母は、わたしが現在いるこの世界の人だったらしいんです!はい、ここ重要です。母は黒髪(超ツヤツヤ濡れ羽色でございます)、黒目(まさに宝石ようで)でしたが、確かに日本人離れした美貌ということで、村でも評判でした。母は、この世界に偶然来た父と恋に落ち、この世界の神様と約束をして日本に父と一緒に行ったそうです。
父はホントに魔力の質、量ともに素晴らしかったそうです。会えない、話せないはずの神様と約束を交わしました。いやはや、あっぱれですね。
その皺寄せを子供に任せるなんて、ほんとすごいですよ。
約束の内容はこうです。二人の子供が生まれ15歳になったとき、この世界にできた母のための空席にわたしが座るというものです。
この世界には、ある程度運命というものが存在しているらしく、誰一人として同じ運命の人の人はいないんです。その運命は絶対に果たさなければならないそうです。その運命は例え、くだらないことでも母がいなくなると、この世界の決まりがダメージを受けてしまいます。なので、わたしが替りにその運命を達成する。
この約束を、私は15の誕生日の前日に聞きました。9月22日でしたね。どうやら直前にしか教えてはいけなかったらしいです。しかもこの世界のことは、あまり教えてはいけないそうです。結構ひどい条件ですよね。
元凶の父は少しも悪びれずに
「お母さんがいなきゃ、お前は生まれなかったんだしな。まっ、頑張ってくれや」
と言いました。……、うん。間違ってはいないんだよね。そうだね。ホントそうだけどさ、と少し複雑な気分になりました。
母も、眉尻を下げ一応申し訳なさそうではあったのだけど、
「大丈夫よ。運命って抽象的なものが多いらしいから、簡単なことかもしれないわ!それに、意識しなくても達成できるから!ねっ!」
ねっ!ってどう切り返せばいいのよ。お母さんも行くことには反対しないんだ。……ふふ、少し頭が痛かったな、あの時。
私が了承した理由は、また今度で。
ということで、私は事前に異世界トリップをすることを知っていたのです。これがわたしが混乱しなかった理由です。
ただ、約束は大雑把なもので、言語補正と字を自由自在に操れることぐらいしか保証されてないらしく、ここでの生活は自分でどうにかしないといけませんでした。
なので、適当に売れそうなものを母に見繕ってもらい、リュックサックひとつ背負いあっけなく異世界へと行きました。父が、私の瞼を抑えるとフッと――
そんな感じで始まった、新しい世界での生活。不安もありましたが新しい生活にワクワクしました。
そして、終わった母と父との生活。最後はギュッとしてバイバイしました。初めて、父が泣きそうな顔をしていました。ほんと素直じゃないだから。母も、きっと私も泣いたかもしれません。
少し早いかもしれませんが、私は独りだちを迎えたのでした。