彼らの決意
一群の騎馬が、北門へ向かって疾駆してきた。先頭にはメッシ、その彼につかず離れずついているのはリョウ。
「なんだ今のは!」
地面にへたり込んでいるタカシの前で、メッシは裏返りそうな声を張り上げた。
今の、というのが、一直線に戦場を走りぬけた子竜のことを差しているとタカシが気付くまで、少し間があった。
「・・・・・・ああ、ルウオだ」
「ルウオウ?あの、アケイオデスの名か。なにを知ってる、なんで貴様があのチビ竜のことなど知っている!」
聞いてきたのはそっちじゃないか、とタカシは呆れた気分でメッシを見返した。
メッシはあからさまに動揺していた。自分の想定外の事態に対処しきれず、混乱している。冷酷無情なメッシらしくない。
まあ、人食い竜と言われ恐れられるアケイオデスが、それがたとえ子供でも、戦場を一目散に駆けて横切るなど、誰の想定にもないだろうが。なんと、誰ひとり食わず、見向きもせず、血を浴びても一向に気にしていなかった。肉食恐竜の態度としては、これは異常だろう。
おまけに。
見事なルウオの跳躍を思い出し、タカシは外壁を振り返った。
あの小さな体でこの馬鹿でかい城壁を飛び越えたのだ。それを見て、メッシが動揺するのも当たり前かもしれない。この街は、彼の最後のより所でもあるわけだし。
「ルウオは友達だ。今頃、ソナラを助け出しているはずだよ。あなたの部下、生きていればいいけどね」
花畑で襲われた時に見た、真っ赤な口。それに、姫に随従する騎士のようなルウオの態度。子竜に関する記憶が一度に甦って、タカシはむしょうにおかしくて、声を上げて笑った。
「愚弄するか!」
「そうじゃないよ」
「まさか、あのチビ竜が、武神の援軍だとでも言う気か、貴様」
タカシは背後の門扉を見やった。
ソナラさえ無事なら、ニナが失敗するはずはない。もう、大丈夫だ。
リョウを見ると、彼もうなずいている。
「援軍は来ない」
タカシは立ち上がり、メッシを見つめた。
「あなたも感づいているはずだ。援軍はない」
「狼煙は・・・・・・」
「六日前に、今日の朝に狼煙をあげるよう、あなたの部下の兵へ指示したものだ。確実には信用できないから、今朝まで胃が痛かった」
メッシの額に血管が浮いた。
「貴様は本気で死ぬつもりだったのか!」
「それぐらいの覚悟でいないと、あなたは騙せない。いや、実際には騙されてなんかいなかったんじゃないの?半信半疑で、本当であれば儲けもの、そうでなくても、武神の子に欺かれてしかたなく戦った、という言い訳ができるもの」
いかにも戦いにはやるような、メッシの横柄な態度。あの態度の急変も、武神の子にたぶらかされた愚か者を演じていたのではないのか?
メッシは歯軋りし、背後の兵へ振り返った。
「全軍撤退の命令を・・・・・・」
「無駄だよ」
タカシが無情に告げる。
「門は、ニナと一部の住人の協力で制圧した。けして開かれることはない。あなた方に、逃げ場はどこにもないんだ」
メッシは反射的に外壁の上を見上げた。
確かに、そこにいるはずの残留部隊の見張りが消えている。
「貴様はどうするつもりなんだ!」
メッシが剣を抜き、ひたりとタカシの眼前に向けた。瞬間にはリョウのカタナがメッシの喉元を狙い、一拍遅れて周囲の兵がリョウを無数の剣先で囲んだ。
いつかの再現。
「嘘っぱちの上に退路を断つなら、なぜ貴様はここにいる!」
「降伏してください」
タカシの真摯な目に気圧されたのか、メッシの剣が震えた。
「なに?」
「降伏してください。それを言うために、僕はここにいる。僕とは関係のない他国の兵士であっても、これ以上の犠牲は見ていられない。降伏してください」
「貴様はどうする!反乱軍をたぶらかし、無用な戦いへとけしかけ、それで、降伏さえすれば無事でいられると思ったか!武神の子であれば処刑は免れると思ったか!?」
タカシはしばらくメッシを見つめ続けていた。
この男に言って、わかってもらえるだろうか。
「どこぞに逃げる算段をしているのだろう。言え、言わねば殺す!」
「逃げるつもりも隠れるつもりもありません」
メッシの目が血走っていた。ヤバイな、とタカシは漠然と死を覚悟した。
「ローデシア王国軍に投降し、自分の罪に見合う罰を受けるつもりです。多くの人を、殺したのは僕だから」
「その心配はねぇ、って、散々俺とニナで言ったんだけどな」
突きつけられた剣先などには目もくれず、リョウはメッシをニヤニヤした目で見つめた。
「反乱軍から街を開放した功労者だぜ。・・・タカシはな、王国軍と敵対していたわけじゃない。あんたらと戦っていたんだから」
誰も手助けできない、たった一人の戦いをしていたのだから。処刑なんてされるはずない。
リョウのニヤニヤした目が、さらに細まる。
タイミングを見誤るな。メッシの体を凝視しろ。一瞬だ、こいつがタカシへ向けて攻撃へ転じる一瞬の隙にすべてをかけろ。
その時、メッシの剣が震えた。リョウの剣も震えた。リョウを囲む剣先も震えた。
なんだ・・・・・・?
大地が振動していると気付いて、全員が自分たちの一触即発の状態を忘れていた。