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無関係な戦争

「貴様らが王国軍に内通したのか?」

 前日と同じ部屋で、レナートは肥えたほっぺたを痙攣させながら、それでも全体には余裕をにじませて訊ねた。

 余裕を持っているわりには、聞いてくる内容は目茶苦茶だな。タカシは内心嘆息した。やはり、王国軍がやって来たのか、と。レナートの余裕は芝居だ。

 れいによってタカシを中心にニナとソナラが隣に座り、背後を帯剣していないとはいえリョウが護っている。

 縄は一応はずされたが、昨日の扱いとは雲泥の差を感じる。

「私が国境を越えたのはつい先日です」

 これもれいによって、タカシはから元気の芝居で自信たっぷりに笑って見せた。・・・・・・自信たっぷりに見えるはずだ。

「この姉と妹に関しても、山の村からは離れていない。素性を知っていた以上、それなりの監視はつけていたはずですが」

 私は年上か!?あたしタカの妹ー、という声は無視した。

「頻繁に手紙が届いていたようだが」

「受け取る一方で出してはいない。第一、父親が娘の心配をして手紙を送るのは、不自然とは思えませんが」

 あんなやつは父親じゃ、という一連の声も無視した。

「内通と言いますが、ゴンドーヌの人間である私たちが、誰に内通するのです?まさかこれから攻めようとしているローデシアへ?まあ、うがって考え、ゴンドーヌがローデシアへ恩を売ろうとでもしたのか、まずありえませんが、そうだとしたら、反乱勃発後にわざわざ街の中へ潜入する愚をおかすでしょうか?あとはローデシア国内の問題、我々は関係ない」

 関係ない、と言い切るとレナートの肥えた額がひくついた。あんなところにも贅肉はつくんだなあ。

「父にはほとほと困っています。反乱の予兆があるなら教えてくれればいいのに、家出娘の説得をしに行け、と言うだけなんですから」

「手紙を届けに来ただけだと聞いたが」

「家庭内の恥ですから。他国の方に知らせるのも・・・・・・しかし、ことここにいたっては疑われるより、マシでしょうね」

 よくもこう次々と嘘が出てくる。タカシは意外な自分の才能に驚いていた。緊張感がほどよく口の回りをよくしてくれる。いや、恐怖感と言った方がいいか。スパイだとレッテルを貼られれば即処刑でもおかしくない雰囲気だ。

「正直な気持ちを言わせてもらえれば、我々四人には関係のないこと。ですから、即刻開放してもらいたい。もし我々が命を落とせば、ローデシアとゴンドーヌ間の火種になる恐れがある。元法務官の子供四人の命は、軽いものではありませんからね。もちろん、あなた方はゴンドーヌと共闘する立場なのですから、聞き入れてくださるものと思いますが。父への使者の件もおまかせください」

 レナートはためつすがめつという感じでタカシを見つめ、やがてのけぞり、唾棄するように言った。

「攻めてきた軍は北方国境警備隊の一軍だ」

 ニナが息を飲む気配がある。

 北方。ゴンドーヌのある方位。タカシの最悪の予想が当たった。

「ゴンドーヌはあなた方との協定を破り、ローデシアについた、と?」

「ふん、少しは頭が回るようなのは確かか」

 反乱を察知したローデシアが、隣国の動静に無頓着なわけがない。先手を打ったローデシアは、ゴンドーヌとの不戦条約を秘密裏に締結、不用になった国境の固めの一部をこの街の攻略に向け、戦力不足を補った。そうとしか思えない。

「あなた方の勝機はついえたわけだ」

「馬鹿なッ、我々の反乱蜂起を知れば、虐げられてきた辺境の領主や民が立ち上がる。その手はずも整っているのだ」

「だが、北方の大国は腰を据えて動かない」

 レナートが拳を握る。

 負けるとわかっている戦争に加担する者はいない。皆無ではない、ということは、故国の歴史を学んで知っているが、しかし、大多数は動かない。

「わかった。もういい。牢へ連れて行け」

 レナートの言葉に抵抗するように、ニナが口を開いた。

「・・・・・・提案があるのだが、レナート卿」

 地方行政官に卿をつけるのが正しいのかどうか、タカシは判断しかねたが、ニナの顔には一種の悲壮が浮かんでいた。

「なんだ」

「もはや、あなたの勝機は一つしかない。北方の大国で法務官を務めたことのある英雄の、四人の子供だ」

 レナートは、わかっている、というように手を振った。

「だから連れてきた。お前たちは人質だ。武神の子の存在を知れば、敵もおいそれと攻められぬ」

 そういうことだったのか、とタカシは驚いた。間違って殺してしまったら、外交問題に発展しかねない。なら処刑ってことはないよね!

 その彼の顔を見て、ニナは呆れた表情を作る。鋭いのか鈍いのか、深読みするのか浅はかなのか、よくわからない青年だ。

「だが、人質に四人はいらない。一人でも十分だろう。残る三人、弁舌鮮やかなるタカシと、護衛役のリョウ、そしてやく・・・・・・」

 やく、ともう一度言ってから、ニナは無表情に吐き捨てた。

「役立たずの」

 唇を噛む。

「ソナラの三人を、王国軍ないしはゴンドーヌ共和国への使節としてみてはどうか」

 ニナの意図は一瞬でレナートに見抜かれた。

「麗しい兄弟愛と犠牲精神か。しかし、人質というのは一人よりは二人、二人よりは三人」

「ゴンドーヌへの使いは悪い話じゃない」

 タカシかが急いで続けた。

「ゴンドーヌは、なにもローデシアを犯す必要はない。ただ国境へ大軍を並べるだけで、いや大規模に軍を動かすフリをするだけでいい。協定違反すれすれの行為でいいんだ。王国軍は当然危機感をいだき、戦力を国境へ回さざるをえなくなる。あなた方が勝てる見込みも出てくるし、あなたを始め主要人物は逃亡し地に伏せ、次の好機を待つという選択肢もある」

 両国がかわした密約の内容を想像することすらできないのに、よくもでたらめがぽんぽんと出てくる。やはり、これは才能か?

「あの大国が動くものか」

「動く。モルグ・武神・バートレットさえ動かせれば、被害をこうむらない程度なら軍を動かす可能性は高い。そのための最高の手札がここにいる」

 本当にそうなのか知らない。いまだにあのモルグが英雄だったなんて信じられないし、今でも国政への影響力があるかどうかすら知らない。しかし、そんなことは関係ない。ニナとソナラさえ逃がすことができれば。

「跡継ぎとしての私かリョウが人質として残るのが適任と思える。が、鑑みるに、途中王国軍兵による妨害も考えられる。ここは、剣にうとい私が残るのが適任と」

「馬鹿野郎」

 後ろからリョウに殴られた。

「お前が残るなら俺も残る」

「ニナとソナラは女の子だ」

「馬鹿野郎」

 もう一度殴られた。

「俺より強い女だぞ」

 そんなに強いの!?

 思わずマジマジとニナを見てしまい、ニナは赤くなってリョウの腹を殴った。

「いてッ、なんで、俺だけ」

「子供のたわごとには付き合ってれん」

 レナートは壁際の兵へ合図した。

「連れて行け」

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