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来襲の気配

 騒がしさで、無理矢理に夢の中から引きずり出された感じだ。タカシは眠い目をこすり、隣のベッドで眠っているはずの友人を見た。

 リョウはすでに目を醒まし、窓から外を見つめている。

 窓の外からは、黎明の薄暗さにそぐわないざわつきが届いていた。

「どうしたの?」

 タカシが訊ねると、リョウは振り返らずに「まるで攻められてるような騒ぎだ」 と緊張した声で答えた。

「攻められる?誰が?」

「・・・・・・寝ぼけてんのか?」

 タカシはしばらく考えて、がばっと起きて窓にしがみついた。

 兵士たちが通りを走り回っている。昨日は日中にもなかった騒ぎだった。こんな朝早くに起こる騒動とは思えない。

 兵士が騒ぐ理由。リョウたちのような侵入者対策以外なら、二つ考えられる。

「まさか」

 街中の様子を探った。兵士たちの声や足音、武具の騒音は聞こえるが、戦闘をしている雰囲気ではない。なら、街の者が反乱軍に対して決起したわけではないようだ。

 ならば。

 ローデシア王国軍が攻めてきたのか。

「昨日聞いた話じゃ、街の占拠から四日目だ。タカシ、どう思う?」

「街道を封鎖していても、反乱の事実は必ず伝わる。だから、いつかは・・・・・・」

 だが、早すぎる。反乱鎮圧の軍がやって来るのは、まだ幾日か後だと思っていた。下手すれば一ヶ月以上はかかるのではないか、と。それぐらい、軍を動かすということは大変なことだと、モルグに教わった。

 と、いうことは・・・・・・

「反乱の情報がローデシア政府に筒抜けだったのか?」

 前もって軍を準備していたとしか思えない。

 膿を出すために知らぬフリをし、わざと反乱者に武装蜂起させ、素早く鎮圧する――定石だが、実際にやれる人間は、そうはいない。最終的には鎮圧可能でも、被害規模の想定は未知数なのだから。ローデシア王国内に、相当心臓の強い策士がいるということか。

 いや、今の自分にはそんなこと関係ない。タカシは思案を一蹴した。

 問題は、すでに街が包囲されているのか、どうか。街道は、すでに封じられているはずだ。

「タカシ」

 部屋に飛び込んできたニナの顔を見て、タカシはやはり、と思った。

 ニナの滅多に見せない不安な表情。異世界から来た高校生二人の意見では心もとない、と思っていた矢先に出くわすには、最悪の顔だった。

「王国軍だと思うか?」

 タカシがニナへ訊ねる前に、考えていたのと同じ言葉で彼女に訊かれた。返事に一瞬つまる。

「・・・・・・たぶん」

「タカシが言うなら、そうなんだな」

「いや、ちょっと待ってよ」

 あまりにも簡単に納得されて、タカシは慌てた。

「情報が少なすぎる。決め付けることはできない。それに、僕なんかの意見なんかより、ニナはどう思ってるのさ。そっちの方が確かだよ」

 ニナが驚いた様子で、次いで真剣な目でマジマジとタカシの顔を見つめた。

「・・・・・・お前も、そこの剣術馬鹿と一緒だな」

 意味がわからずに困惑したタカシへ、ニナは戸口の外からソナラを引っ張り込んでから言った。

「情報不足というなら、私が教える。知りたいことはなんだ?」

「はあ?」

「早くしろ。もし王国軍だとしても、しばらくは、おそらく数日は睨みあいだろうが、この事態でレナートがどうぶち切れるかわからない」

 ぶち切れる?どういうことだ?

「じゃあ、その・・・・・・レナート管理官だけど」

「ああ」

「管理官っていうのはどの程度の官位なの?上?下?」

 政体の異なるゴンドーヌにはない官職だ。

「ローデシアでは大きな都市は基本的に地元の豪族による統治が認められていて、これが領主だが、わけあって領主のいない都市へ中央から派遣される地方行政官、それが管理官だ。都市は周辺に小さな衛星都市をいくつも持つから、一領に対するそれなりの権限を持つが、所詮出世の足がかり、中央では高位の官とは考えない。レナートほどの歳で管理官では先は知れている」

「反乱軍を統制できるほどではない?」

「そうだ。おそらく他に首謀者がいて、何人かの領主や管理官を束ね、動かしている。私の予想では、他の決起した街のどこかに、黒幕と管理官たちとを結ぶ前線の司令官がいるはずだ」

「この街にはいない?」

「いればもう会っているはず」

「あの記録官は?」

 チッ、とニナは舌打ちした。階下で慌しい足音がしている。

「ニナ、あの記録官だ」

「メッシとかいう男か。あの男が記録官などという下官なものか。あの動き、態度、口ぶり、間違いなく武官。おそらく黒幕が送ったレナートのお目付け役」

「この街の兵を掌握している指揮官は、レナート?」

「おそらく表向きはそうだろう。だが、実質はメッシと見て間違いない。この国の軍は資質として管理官ごときには従わないからだ。レナートが掌握しているのは警衛隊ぐらいな」

 ドアが開けられて、数名の兵士が乱入してきた。

 タカシが叫ぶ。

「あと二つ!」

「時間切れだ、タカシ」

 剣を抜こうとするリョウを制して、ニナは両手を兵士へ見せて害意のない意思を示した。

「兵の数が多すぎる。私とそこの暴れるしか能のない役立たずだけでは、タカシとソナラを連れて逃げ出すことはできない」

 凄い。タカシは唸った。異変を察知した時、包囲されているかどうかばかり考えた彼と、事態の推移と脱出の可能性とを冷静に判断したニナとの違い。やっぱりニナは凄い、とタカシは思ってしまう。

「しかし、思ったより早くぶち切れたな、あの臆病者」

 ニナは不敵に笑った。

 タカシは首をかしげた。



 以前と違って剣を奪われ、縄で腕を縛られた。リョウが屈辱に身を焦がし、ソナラにかけられた縄にニナが悔しそうに歯を食いしばっていた。ソナラ自身は、今にも泣きそうだが、必死にこらえている。

 連行されながら、リョウが小声で訊ねる。

「さっき訊いてたの、ありゃなんだ?」

「王国軍の鎮圧部隊が最初に向かうのは、反乱軍全体を指揮する司令官のいるところのはずだから、反乱軍内でのレナートやメッシの地位を知りたかったんだ」

「つまり?」

「反乱軍司令官のいるとこは、とうに包囲済み。ここは後回しのはずさ」

「なるほど」

「ま、レナートっておじさんが戦争を指揮するって感じには見えないよね」

「それは納得」

「ある程度、楽観していいのかもしれない」

「ほう」

 タカシが言うと、リョウはぐたっと体の力を抜いた。

「お前に言われると安心するぜ」

 ニナまでが笑った。

「そうか、楽観できるのか」

「いや、だから、僕なんかの意見、聞いたってしょうがないよ。この世界のこと、なんにも知らないんだし・・・・・・」

 語尾が消えていく。最近、己れの無力を痛感することばかりで、正直なところ気分が滅入っていた。モルグなら、もっと的確な判断をくだし、確信を持って行動できるだろうに。

「楽観てなに?」

「安心していいってことだよ、ソナラ」

「いや、だから・・・・・・」

 タカシは汗した。

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