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人生最大の芝居

「それはつまり、反乱を起こすと同時、というタイミングの悪さですか」

 タカシの言葉に、レナートはさらに笑った。

「北方の大国ゴンドーヌにあって、今回の我々の蜂起に反対する勢力の一部が武神モルグ・バートレットの一派だ。違うかね?」

 知らない。モルグがかつて徒党を組んでいた素振りなど見せたことがない。本当に、モルグは、辺境の荒野に住まう一人の中年男ではないというのか?

 疑問を表に出さず、考える様子すら見せず、タカシは言った。

「ぼ、私の知るかぎり、モルグは、いや、モルグ・バートレットは隣国の動向に感心を寄せるタイプの男ではありません」

 そんなことより。タカシは耳を疑った。

「それより、意外です。今の言いよう、隣国ゴンドーヌ共和国が、今回のあなた方の反乱を知っていたように聞こえますが」

 ありえない。反乱者は行動を起こすまで隠密に動いていたはずだ。ローデシア本国に対しても隠ぺいしていた反乱意思を、他国の者が知っているなどと。

 レナートが笑う。

「とぼけるな」

「とぼけることができるならとぼけますが、そんな処世術は身につけていません。私は」

 タカシは小さく唾を飲んだ。はったりかましてやる、行くとこまで行ってやる。

「私は、武神の息子として、全てをさらしているのですが」

 賭けだ。武神、たいそうなあだ名だ。それがどういう種類の名前か知らないが、その大袈裟な額面に賭けさせてもらう。

「ゴンドーヌが反乱を察知していて、私の父武神モルグが反対していたなど、聞いたこともありませんし、ありえません。もしそうなら、この反乱は起ちあがる前にローデシアの当局によって・・・・・・」

 レナートが笑っている。

 なんだ。なにか間違えたのか?おかしなことを言ったか?

 タカシの頭が必死になって思考を探り、そして唖然となった。

「まさか、隣国に軍事協力を願ったのか」

 レナートの笑みが広がる。

「やはり、知っていたのか」

 彼にとって、十代の青年が自力で答えを得るなど、想像外のことなのだろう。だが、タカシは、たしかに、限定された情報の中からその結論を自ら導き出した。

「馬鹿なッ」

 タカシは叫んでいた。

「そんな馬鹿なことッ」

「馬鹿なものか。数日後にはゴンドーヌ軍が北方より南下してくる。我々は、国境警備隊を挟み撃ちにして撃破。あとは、周辺の国境警備隊が到着する前に、ゴンドーヌ軍と連携して首府を攻略、現王弟を玉座にすえる」

 タカシは頭が痛くなった。

「他国に、それも大国に内政干渉させたら、それも軍を引き入れたりしたら、侵略されるのはわかりきってるだろッ。領土を奪われるか、よくて傀儡政権を立てられ、国は疲弊する。ローデシアの亡国のもとを、あんたたちは作ろうとしているんだ!」

「馬鹿を言うな、ゴンドーヌ共和国ごとき、恐れはせぬわ」

 馬鹿な。タカシ思う。レナートたち反乱者は、自ら狼を招いている。なぜわからないのだろう。世界史の授業を受けたことがないのか?

「あんたたちは馬鹿だ」

 そう言うタカシへ向けてもレナートは今までの笑顔を消した。

「ならば、今までのローデシアが正しいと言うか?」

「僕はこの国のことなんて知らない」

「そうだ、お前はゴンドーヌの者、あの大国に生を受け、武神の元で裕福に暮らす者だ。だが、わしらは違う。ローデシアの圧政を見よ、自らの繁栄のみに固執し辺境をかえりみぬ首府の阿呆どもを見よ!誰かが・・・・・・」

 その後、しばらくレナートの演説が続いた。ローデシア王国の政治がいかに腐敗し堕落しているのかを説明し、自らの正義を訴えていた。

 しかし、タカシにとって、それは意味のない言葉の羅列だ。

 レナートの言う通り、彼はこの国の者ではない。いや、この世界で生を受けた者ですらない。悪政に苦しめられている人がいれば、可愛そうだと同情もするが、反乱者への共感はまったくないし、同情程度の感情は、行動を起こそうという原動力にもなりえない。

 僕には関係ない。言葉にすれば、そういうことになる。

 ただ、大国に蹂躙されるであろうこの国の未来を予見できるというだけだ。

「・・・・・・現王弟にはそれが可能なのだ」

 長いレナートの演説が終わった。

 タカシは、演説の間の思索で、レナートの目的をおおよそ想像できていた。

「つまり、我々武神の子からモルグの近況を探り、同時に説得、武神への使いに仕立てたい。そういうことですね」

 タカシの静かな言葉に、レナートはぐっと身をのけぞらせた。

「・・・・・・そんなことを言ったか?」

「そうでなければ人質ぐらいの用にしか立たない。だが、それで今後共闘するゴンドーヌとの軋轢が生じるのは面白くない。ニナたちの素性を知っていながら今まで触れずにいたのは、そのためでしょう?今になってここまで連れてきたのも。違いますか?」

 初めて、レナートの目に疑惑が浮かんだ。

「貴様、何者だ?」

「タカシと言います。武神の子、ですよ」

 タカシの口元に浮かんだ笑みが、凄絶に歪む。ソナラが身を引き、ニナが目を見開いて驚くほどに。

「よかったじゃないですか。スパイ容疑のかかった娘二人を放っておいて。お望み通り、利用できる時がきましたよ。それも、我々の方からあなたたちに接触した。飛んで火にいるというやつですね。それとも、小隊を殲滅したのがたった一人の武神の子だと知って、慌ててこんな会見を準備したのでしょうか?」

「貴様」

「お伺いした話を父へ告げるかどうか、一晩考えさせてください。私の一存では決めかねます。宿くらいはお貸しいただけるのでしょう?」

 タカシは立ち上がった。肩肘張って胸を突き出し、傲慢な態度で、会見の終了を告げたのだ。それは、会見をいつ終わらせるのか、決める権利がこちらにあるという主張でもあった。

 主導権を握れ。モルグに散々言われたことだ。

 ――タカシ、お前は謙虚だ。それは美徳だが、不利な立場の時には、破廉恥なほど押しに押して主導権を握るのも一つの選択肢だぞ。決定権があたかもお前にあるよう、相手に思い込ませるのさ。相手は脅威を感じると同時に、お前の力量を認め相応の対応をするだろう。

 横で、ニナも立ち上がった。

「私は違うが、この男二人は間違いなくバートレット家の跡継ぎだ。丁重に扱うことだな」

 リョウが剣の鞘を鳴らし、テーブルから離れて立つ記録官メッシを睨んだ。

 ソナラは言った。

「タカ、怖い・・・・・・」

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