♯4「リハーサル、朝連、卒業式」
とうとう、卒業式前日。
ぼくたちは、初めてみんなのまえで演奏をする。
体育館に楽器を運んで、譜面台を立て、椅子を並べて楽器を出す。
本番ではないから、そんなに緊張はないけど、ぼくは途中でかなりひどい音ずれを出すときがあって、それがないか心配だ。
ななみはめんどくさい早く終われー、とぶつぶつ言っている。
並びは、半円形で、正面から見て一番左がぼく、その左隣にななみ、ななみの隣に涼太、
隣にひかり、隣に春香、一番右が亜樹。
「リハはじめます!静かにしてください」
司会を務める先生が、マイクを使って言う。
やっと静まりかえった体育館に、お決まりの言葉を先生が読んでいく。
顧問が、軽く手を上げて、準備の合図をする。
「卒業生、入場」
顧問の両手が下がる。
その合図で、ぼくたちは演奏を始めた。
選んだ曲は、3曲。
1つは、ひかりが大好きなアイドルの歌、2つめは顧問が好きな歌、3つめは、応援曲。
3つ目はみんなで決めた。
リハーサルだけど、結構いい演奏ができたかな、とぼくは思う。
退屈な卒業式リハーサルを終えて、放課後、体育館で練習をする。
「ねえ、さっきのリハの演奏、結構良かったんじゃん!」
ひかりがユーフォを片手に、急に言い出す。
「なんか、私途中でミスったあ」
春香が長い足をぱたぱたと動かす。
このほんわかした彼女が、急に切れだすと怖いんだよ。今で言っておく。
「稔おまえ、めずらしく音ずれしなかったけど、明日もするなよ」
ななみがホルンを足でもてあそびながら(壊れるよー)、ぼくに言った。
「うん。明日もちゃんとできるようにするよ」
「まじでおまえ下手くそだから今日は遊ばないで練習しろ!」
ひかりが指をずばっとぼくのほうへ向けて言い放つ。
「ねえぶちょー。明日って朝連あるの?」
涼太がのんびりとひかりに問う。
「あるに決まってるでしょ!明日は本番なんだから」
ひかりが自分のひざを叩きながら言った。
「何時から、今日泊り込むか!?」
涼太が急に恐ろしいことを言い出した。
「それだけはダメ!」
ぼくは必死に講義!
「は?なにいってんの冗談だけど」
けらけらと涼太が笑った。
分かってたよ!ふん。
** **
そして、とうとうやってきた卒業式。
ぼくたちは、昨日から泊り込むことなく、7時に体育館に集まった。
これから8時までの1時間、ぼくたちは練習する。
そして、今ちょうど、1曲目が終わったとき。
「稔。おまえ下手くそ」
「改めて言わなくても・・・」
そして、さっそくひかりのダメだし。
くそー。
「一応、頑張るから」
「だまれ稔!おまえうっさい!」
は!?
「ほらー。はるちゃんキレたよー」
やっぱり春香・・・。
「すんません」
「すんませんじゃなくて練習しればかああああ」
春香は足をばたばた。
やっぱり、なぜか急にキレる意味不明の春香は怖いです・・・。
「じゃあ、2曲目あわせるよ。稔下手くそ」
「先に言うな」
ぼくはひかりに小声でつっこむと、トランペットを構える。
正直トランペット難しいんだよねー。
「1、2、3、・・・」
ひかりのせーの、が聞こえる。
ぼくはトランペットのソロが入っている。
ぼくは、下手くそなりに頑張った。
つもりだ。
** **
「そろそろだあ」
ひかりは、ユーフォを抱きしめてそう言った。
そろそろ、本番。
ぼくたちの初演奏が始まる。
初演奏って言っても、みんなのまえでってことだけど。
あれ?まえにも言ったっけ?
ま、いいよね。
「ねえ、本番のまえに外でちょっと合わせない?」
涼太がチューバをばしばし叩きながら言った。
ちなみに涼太は、チューバは初心者のくせにうまい。
音楽の才能あるんだよね。
うらやましい・・・。
ぼく?ぼくは聞かないでください。
ひかりと春香は賛成、と言って楽器と譜面台を持って外に出て行く。
ななみもついていく。
あ、亜樹も。
ぼくも行くか!
「なんか、一応出来上がってはいるけど、一番いい演奏で頑張ろうね」
ひかりがひかりらしくないことを言った。
なんか、背中がぞわっとしたんだけど・・・。
「ねえひかりちゃん。ここ難しい」
春香は自分の楽譜を指差して、ひかりに言う。
「は!いまさら言うか!まあ、今のうちに教えとくから覚えてよ」
「うん」
「めんどくさいー。早く終わらせえぇぇぇぇぇえ・・・」
ななみ・・・。
お願いだからぼくの隣でぶつぶつ言わないでくれ。
「ななみはいいよ。ホルンだもん」
ぼくはななみに意見する。
ななみは、ぼくをちらりと見てから、
「おまえ下手くそなくせに音でかいからそうなるんだよーん」
ななみはぼくに向けてあっかんべー。
むかっ。
でもここで反論したら500倍くらいに返ってくるから、やめておこう。
「あ、始まるっぽい・・・。頑張ろう!」
ひかりはこぶしを上に突き上げた。
ななみも、おー!と言ってひかりのまねをする。
さっきまでぶつぶつとめんどくさいといってたのは誰だい!
でもななみはチビだから、こぶしを上に突き上げても迫力はマイナス10くらい。
ぼくたちは、体育館の扉を開いて、中に入った。
「どきどきする?・・・」
ななみが、ホルンを抱きしめて呟いた。
「うん。ぼくも」
ぼくはさっきから手汗がだらだらと出てきている。
失敗したら、やばい。
司会の先生の、お決まりの言葉がつらつらと流れる。
そして、顧問の両手が上がった。
みんな、楽器を構えた。
ななみはさっきからずっと足を小さくぱたぱたしている。
ああ・・・。
手汗でトランペットが・・・。
「卒業生入場!」
顧問の両手が下がった。
はじめは、シロフォン(鉄琴)の潮音のソロ。
そして、拓弥のドラムが入る。
その次に、ひかり、涼太、ななみ、春香が入る。
あ、亜樹も。
そして、ぼくはメロディー。
吹奏楽部で一番目立つトランペット。
自覚している下手くそだけど、音ずれだけはしない!
目の前を、吹奏楽部の先輩が何人か通り過ぎていく。
クラリネットの先輩、たったひとりで頑張っていたフルートの先輩、のんびり二人組のアルトサックスの先輩、ぼくより下手くそといわれたトランペットの先輩、この部で唯一のソロコンテストの金賞受賞のチューバの先輩、一番の美少女、トロンボーンの先輩、パーカスの先輩。ユーフォの先輩。
みんな下手くそだったし、やる気もなかったけど、仲だけはよかった部。
なんか、さびしいなあ。
そろそろ、1曲目が終わる。
ぼくたちは、もう2年生終わるんだ。
なんか、実感ないな。
ろくに部活に行かないで、宣言をなぜかぼくだけ録音されてから、すごく早かった気がする。
ぼくとななみと一番仲のよかったホルンの杉内里香先輩がちらりとぼくたちのほうを見て、通り過ぎていく。
少し、笑ったような気がした。
里香先輩は、無事推薦で高校合格している。
ななみは里香先輩と同じ高校に行くために頑張ると言っていた。
ぼくたちは3年生になるんだ。
新入生はどんな人たちかな?
進入部員は入るかな?
里香先輩は、自分の席に着くと、ゆっくりと座った。
ななみのホルンの音が、少しだけ止まった。
そして、2曲目に入った。
3年生の人数は少ない。
2曲目の真ん中くらいで、入場し終えてしまった。
卒業生が、みんなそろった。
ぼくたちの演奏も、終わった。
ななみは、ずっと里香先輩のほうを見ている。
やっぱ、さびしいのかな。
ななみがぼくをちらりと見る。
「なに?」
小さい声で問うてきた。
「里香先輩。卒業しちゃうね」
ぼくも小声でかえす。
「あたし絶対里香ちゃん先輩と同じ高校行く」
ななみは小声で宣言した。
「ぼくたち3年生だね」
「そーだな」
ななみは少し眠たそうな顔をしていた。
ぼくは、個人的に今日の演奏は一番うまかったと思う。
みんな、上手だった。
ぼくたちは、3年生になる。
-1st Fin-