♯「プロローグ」
神山中学校の、3階のはじっこ。
そこに、音楽室兼ぼく達の部室がある。
チョークの粉で汚れた黒板。
ぐちゃぐちゃで、ところどころ敗れてしまっている、2年前の12月のカレンダー。
ぼろぼろになってしまった、基礎メニューの表。
楽器室、通称「裏側」には、中身が残っているアップルティやお茶のペットボトル、
持ち帰っていないコンビニ弁当、ぼろぼろのパイプ椅子なんかが散乱している。
そこで、ぼく達はのんびりすぎるほど、のんびりとした毎日を送っている。
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3年生がまだいたころのぼく達の演奏は、いくらお世辞がうまいひとでも、上手とは言えないだろう。
自信もやる気もイマイチなせいか、運動場で演奏してもまったく聞こえない。
演奏会を開いても、客は10人以下。拍手はまばら。
そして、コンクールでは堂々のビリ。
まず、顧問からやる気がイマイチ。
もちろん、サボりもいる。
でもサボりは、ぼく達2年生のうちの2人だけだから、まだいいほうだとぼくは思う。
そんな3年生が10月半ばに引退し、部活・部室はぼく達2年生の天下となった。
ぼくは、3年生に姉がいて、サボることができなかった。
でも今は姉は受験勉強に一生懸命で、部屋から出てこない。
そして、サボるとやけにうるさかった部長もいない。
これはチャンスだ。
そう思ったぼくは、丸々1ヶ月、部活に行かなかった。
そして、どうやらぼくと同じ理由でサボっていたのは、あと2人いたらしい。
そこでとうとう部長がキレて、部員全員で話合い、部長が無断で持ってきている携帯に、「これからは必ず、必ず毎日部活に参加します」という誓いをなぜかぼくだけ録音させられた。
これで、逃げも隠れもできなくなり、ぼくは嫌々、部活に参加することになった。
ちなみに、ぼくと同じ理由でこなかった2人のうちの1人は、習い事多数で来るに来られなかったらしい。それで、習い事の時間をずらす、で部活に参加することになった。
あとの1人は、部活をやめることになった。
この日から、ぼく達は「吹奏楽部」として活動し始めた。
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さっきからぼく達と言っているけど、部員の人数は10人以下だ。
退屈かもしれないが、部員紹介に付き合ってもらいたい。
部長は、ユーフォニウム、略してユーフォ担当の川村ひかり。ちなみに美人。
副部長は、ホルン担当の埼川ななみ。見た目はチビで可愛い。だけど超毒舌。
部員は、トランペット担当のぼく、立花稔と、パーカッション、略してパーカス担当の長野潮音。
あわせて6人の、超少ない吹奏楽部。
そして、部長のひかりは、小学校までベスト3に常連だった金管バンド部に所属し、トロンボーンを担当していた。
中学校からは、引越しのせいでここ、神山中に来た。
ひかりは、かなり上手だ。楽器変わったのに。
ぼくはというと、パーカスからトランペットに移動し、それでいて丸々1ヶ月、部活に行ってないから、大体想像はつくだろう。
とりあえず、練習の流れもついでに説明しておこう。
まずは、・・・あ!
忘れてた・・・。6人目のメンバー。
6人目の部員は、チューバ担当の、風野亜樹。うっかりしたら忘れてしまう、存在感の薄い、無口なひと。
亜樹はもともと木管だったんだけど、亜樹以外はみんな3年生。
3年生が引退してから、木管ひとりはバランスが悪い、ということで、嫌々チューバに移動することになった。
最近はなんだか、チューバをにらみつけている気がする。
とりあえず、全員の紹介がすんだ所で話を戻そうかな。
練習メニューは、ロングトーン、タンギング、簡単な曲を3曲などをやる、「基礎」から始まって、個人個人で練習をする、そのまんまの個人練習。通称「個人連」。個人連が終わった後に、みんなで合奏し、直すところを直す、これもそのまんまの「合奏」。
大体、この流れかな。
そして、この時期にある最初のイベント、卒業式も、もうあと約半年。
そして、恒例の入場演奏。
ひかり曰く、今のままじゃCDを流すことにもなりかねないらしい。
ちなみに、曲も決まっていない。
このままではまずい。
ぼく達は、卒業式までに曲を完成させるべく、活動開始した。