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虹色の嘘

作者: 林代音臣
掲載日:2026/03/12

 君の家のベランダで、ちょっと怖いねと笑い合いながら見上げた空に浮かんでいた、ブラッドムーンの赤色。


 実家から持ってきた小さなコタツに二人でギュウギュウに入って、足をくっつけ合いながら剥いた、温州みかんの橙色。


 雨上がりで湿った落ち葉を何枚も踏みながら、君と手を繋いで歩いた、銀杏並木の黄色。


 可愛いね、似合うよと君が言ってくれた、あまり買ったことがないフェミニンな春っぽいデザインの、ワンピースの緑色。


 動画を見ながら二人で協力して完成させた、雲の浮かぶ空のような、私には甘過ぎるソーダゼリーの青色。


 少し遠出をするために、君と隣同士で肩を寄せ合いながら座った、大型バスの座席の藍色。


 テーマパークで一緒に一日中騒いで遊んで、少し眠たくなってきた目で見た、ライトアップされた夜景の少しぼやけた紫色。


 私の忘れられない、七色に光る幸せな思い出。



****



「私たちね、付き合うことになったの」

 高校からの親友が、私の目を見て伝えてきた。

 その隣には、君が……少し不安そうに眉を下げて立ってた。

「ごめんね、大事な友達だから…ちゃんと伝えておきたくて」

 私の目の前で、二人が軽く目を合わせる。

 ふわりと、甘い雰囲気。ああ、本当なのだ。

「そうなんだー! おめでとー!」

 明るい声を出した私に、二人は驚いていた。

「えー、いつから付き合ってたの? もー言ってよー!」

 ……君が、そんな私を見て心底ほっとしたように。そして同時に……ほんの少しだけ悲しそうに、口元を綻ばせた。

「別れたの半年も前なんだよ? 別にもう、そういう意味では全然ドキドキしたりしないし! 気にしないでよー!」

 私は笑う。二人も笑う。

 お似合いだった。君は、私といた時より……自然に君らしく笑ってた。




 神様、私は嘘をつきました。

 もう取り返しのつかない、訂正出来ない嘘です。


 あんなに大好きだった……ううん、こんなに大好きなのだ。

 もうドキドキしないなんて嘘に決まってる。

 君の姿を見る度に、声を聞く度に、一緒に過ごした日々を思い出す度に……胸が張り裂けそうなほどギュッと痛むのに、同時にあったかくて、可笑しいことに……少しだけ幸せなのだ。


 でも私は君に好かれるためなら、我慢や無理をしてしまうから。

 合わない部分から目を逸らして、頑張ろうとしてしまうから。

 君のことが、ちょっとだけ……あまりにも好き過ぎたから。そしてそれは……きっと、君も同じだったから。

 だから一緒に、この先を歩むことは出来なかった。

 まるで虹色に輝くような、夢のような日々だったから。

 夢はいつか、覚めなきゃいけないから。


 七色の思い出の光を一箇所に集めて重ねて、まるで明るい真っ白な光になったように振舞った。

 もう何とも、思ってないように振舞った。

 だってそうしないと、君が離れられないから。

 私が追い縋ってしまうから。

 その先に道が続いてないことは、そんなはずないと何度も何度も頭で否定しながら……心のどこかではわかっていたから。



****



 二人は帰って行った。帰り道に喫茶店でスイーツを食べるらしい。

 甘いものが大好きな、二人らしい。


 重ねた真っ白な光は、また散らばって、七色に光る思い出に戻っていく。

 そして優しく、時には痛いほど眩しく……そして、また優しく、この先も私の心を照らすのだ。

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