虹色の嘘
君の家のベランダで、ちょっと怖いねと笑い合いながら見上げた空に浮かんでいた、ブラッドムーンの赤色。
実家から持ってきた小さなコタツに二人でギュウギュウに入って、足をくっつけ合いながら剥いた、温州みかんの橙色。
雨上がりで湿った落ち葉を何枚も踏みながら、君と手を繋いで歩いた、銀杏並木の黄色。
可愛いね、似合うよと君が言ってくれた、あまり買ったことがないフェミニンな春っぽいデザインの、ワンピースの緑色。
動画を見ながら二人で協力して完成させた、雲の浮かぶ空のような、私には甘過ぎるソーダゼリーの青色。
少し遠出をするために、君と隣同士で肩を寄せ合いながら座った、大型バスの座席の藍色。
テーマパークで一緒に一日中騒いで遊んで、少し眠たくなってきた目で見た、ライトアップされた夜景の少しぼやけた紫色。
私の忘れられない、七色に光る幸せな思い出。
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「私たちね、付き合うことになったの」
高校からの親友が、私の目を見て伝えてきた。
その隣には、君が……少し不安そうに眉を下げて立ってた。
「ごめんね、大事な友達だから…ちゃんと伝えておきたくて」
私の目の前で、二人が軽く目を合わせる。
ふわりと、甘い雰囲気。ああ、本当なのだ。
「そうなんだー! おめでとー!」
明るい声を出した私に、二人は驚いていた。
「えー、いつから付き合ってたの? もー言ってよー!」
……君が、そんな私を見て心底ほっとしたように。そして同時に……ほんの少しだけ悲しそうに、口元を綻ばせた。
「別れたの半年も前なんだよ? 別にもう、そういう意味では全然ドキドキしたりしないし! 気にしないでよー!」
私は笑う。二人も笑う。
お似合いだった。君は、私といた時より……自然に君らしく笑ってた。
神様、私は嘘をつきました。
もう取り返しのつかない、訂正出来ない嘘です。
あんなに大好きだった……ううん、こんなに大好きなのだ。
もうドキドキしないなんて嘘に決まってる。
君の姿を見る度に、声を聞く度に、一緒に過ごした日々を思い出す度に……胸が張り裂けそうなほどギュッと痛むのに、同時にあったかくて、可笑しいことに……少しだけ幸せなのだ。
でも私は君に好かれるためなら、我慢や無理をしてしまうから。
合わない部分から目を逸らして、頑張ろうとしてしまうから。
君のことが、ちょっとだけ……あまりにも好き過ぎたから。そしてそれは……きっと、君も同じだったから。
だから一緒に、この先を歩むことは出来なかった。
まるで虹色に輝くような、夢のような日々だったから。
夢はいつか、覚めなきゃいけないから。
七色の思い出の光を一箇所に集めて重ねて、まるで明るい真っ白な光になったように振舞った。
もう何とも、思ってないように振舞った。
だってそうしないと、君が離れられないから。
私が追い縋ってしまうから。
その先に道が続いてないことは、そんなはずないと何度も何度も頭で否定しながら……心のどこかではわかっていたから。
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二人は帰って行った。帰り道に喫茶店でスイーツを食べるらしい。
甘いものが大好きな、二人らしい。
重ねた真っ白な光は、また散らばって、七色に光る思い出に戻っていく。
そして優しく、時には痛いほど眩しく……そして、また優しく、この先も私の心を照らすのだ。




