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#6 忌まわしき過去の残滓

教室のドアの前に由実がいた。

「よっ」と軽く手をあげて、「ちょっといい?」と僕を廊下の端に連れていく。

まだ少し青ざめている由実を見て「大丈夫?」と僕は聞いた。

由実はかすかに顎を引いた。

「あのさ、彰はそういう類に興味ないから、知らないと思うんだけど、、」と由実は遠慮がちに話し始めた。

「高1の時から、愛花梨は晴紀と付き合ってたの。いつまで付き合ってたのかは知らないけど、、だから晴紀の話題はあんまり、、」

初耳だった。たしかに僕は他人(ひと)のことに無関心だ。こと恋愛に関してはなおさらだ。

「わかった、教えてくれてありがと」

 僕はそう言って由実と教室に戻った。

教室に戻ると、以前のような活気はもうなかった。

僕は教壇に立った。

すべてを話すべきだと思った。

僕は剛が先生からのメールで下駄箱のドア以外の鍵を閉めたことや、剛が鍵をいれた体育館倉庫が施錠されていること、職員室の鍵がすべて失くなっていること、広人がエンバーマーの資格を持っていて、エンバーミングに必要なものを持参するよう、先生からメールをもらったことを、みんなに伝えた。

晴紀の質問文のことは言わなかった。クラスの不安をこれ以上煽りたくなかった。

「電話は?職員室の固定電話は試した?」

そう聞いたのは(れい)だった。零はクラスの副学級委員長を務めていて、しっかり者だが、無口なせいかあまり目立つタイプではなかったように記憶している。

「ねえ、聞いてる?」零の声で我に返る。

「ああ、えっと職員室に鍵を見に行くついでに固定電話も確認したんだ。回線が完全に死んでるんだと思う。電話機本体は無事だけど、どこかでケーブルがやられてるんだ、きっと。インターネットも同じだった。」

僕はそう答えた。

「そっか....」

零は力なく項垂れた。

「スマホが使えないから、記憶が違ったらごめんね、、」

と前置きして聖羅は

「『終わらないのは?』だったと思う。私に来た質問文。」

「みんなも自分に来た質問文が余興向きじゃないと思ったら、彰君に伝えて。」

聖羅の声がよく響いた。

僕は聖羅の質問文を黒板に書く。

剛が近づいてくる。

「いいの?」

僕は思わず聞く。 

剛は小さくうなずいた。

僕は剛の質問文を黒板に書いた。

「先生が死んだのはあなたのせいです。 芝崎 誠」

教室がざわざわする。

由実が突然、声を張り上げた。

「私にきた質問文は『終わらないと永遠の違いについて』」

由実の声に教室は静まり返る。

僕は由実の質問文を黒板に書いた。

零が由実に続いた。

「私の質問文は『記憶を辿れ 芝崎 誠』」

由実の質問文の横に零の質問文を書き、その横に僕の質問文を書いた。

「矛盾だらけの空間が映すものは?」

「これで全部かな?」

僕はみんなに尋ねた。

みんな、小さくうなずく。

「あのさ、うち、知ってるよ」

楓夏だった。

「雄吾の質問文、スマホ関係じゃないでしょ。」

「適当なこと、言うんじゃねぇ!」

雄吾が声を荒げる。

「たしかに雄吾君、彰君が『質問文を見せてほしい』って言った時も、過剰に反応してたわよね?余興向きの内容なら、別に構わないはずなのに」

聖羅が淡々と言った。

たしかに僕も、あの時の雄吾はどこか切羽詰まっていて、声に焦慮を含んでいるように感じた。

「俺を疑うのか?俺は疑われるのが、一番嫌いなんだ。俺の質問文は『スマホを持ってきていない人数は?』だ!、ほら、言ったんだから、もういいだろ。それともなんだ?まだ俺を疑うのか?」

雄吾は早口に捲し立てた。

(みなと)

楓夏がつぶやいた。

「違った?」

楓夏は雄吾に問いかける。

雄吾の顔が強張る。

「彰、うち、雄吾のスマホがあの時、たまたま見えたから、知ってる。雄吾の質問文は『湊』、たった一文字だったよ。雄吾、一瞬、幽霊に会ったみたいな顔してたけど。」

僕はとりあえず、黒板に書いた。

「湊」

「で、『湊』ってのはなんなんだ?雄吾、なんか知ってんだろ?言っちゃえ~」

少し、茶化すように篤彦(あつひこ)が言う。篤彦はクラスの全員と仲がいい。コミュ力が高く、斯くいう僕も、篤彦とはたまに食事をする程度という意味で、多少の面識があった。

雄吾はうつむいて、黙ったままだった。

「あくまで噂だけどね、、、」

楓夏が口火を切った。

「うちらの一つ上の先輩で、湊っていう名前の先輩がいて、雄吾は湊先輩をいじめてたって噂があるの。『放課後に呼び出して、窓ガラスに立たせた湊先輩に、傷がつかないギリギリの位置にナイフを投げるみたいな、すごく陰湿ないじめをやってた』ってうちが入ってたダンス部の先輩から聞いたことがあるわ。『なんでいじめたのか』とか『他にいじめられていた人はいるのか』とか『他にどんないじめをしてたのか』とかは知らないけど、学校の窓ガラスが防弾ガラスになったのはそれが理由だってその先輩は言ってたわ。」そこまで言うと、楓夏は身震いした。

「その窓ガラスのいじめがあった2週間後に湊先輩は飛び降り自殺したって。全部そのダンス部の先輩から聞いた話だし、その先輩、ウソも多いから、どこまで本当かわからないけど」

「それにあくまで噂だから...」

楓夏は最後にそう付け加えて、話を終えた。


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