#22 友との終焉
僕は、この同窓会の終焉の地となる教室で由実と対峙した。
愛花梨の告白後、クラスの残りは解散準備を進めていたが、由実は微動だにしなかった。
彼女の瞳は、まるで全てをコントロール下に置いているかのような冷たい確信に満ちていた。
「愛花梨の件は終わったわ。愛花梨が自白した。これで全て解決よ。」
由実は、僕がこれ以上、湊先輩の事件の真相を深掘りしないよう、静かに牽制してきた。
彼女の目的は、湊先輩のいじめの事実と、それに伴う自身の関与が明るみに出ることを、徹底的に防ぐことだけだった。
僕は、由実の築いた情報隠蔽というシステムを分解し始めた。
「君の殺人は、情報流出の可能性を排除し続けることで成り立っていた。雄吾、迅、晴紀...君は、湊先輩のいじめの真相を知る者を一人残らず消した。そして、愛花梨を実行犯として利用し、用済みになったら消そうとした」
僕が、彼女の冷酷な情報隠蔽の連鎖を正確に把握していたからだろうか、由実の表情に、初めて微かな動揺が走った。
「君のシステムは、愛花梨の告白という、たった一つの予測不可能な行動によって崩壊した。君は、愛花梨の部屋に仕掛けた盗聴器で、情報流出を防ごうとしたにもかかわらず、愛花梨の告白を阻止できなかった」
僕は、愛花梨の部屋の窓枠に残された亀裂を思い浮かべた。
「君は、盗聴器の回収に失敗し、証拠の痕跡を残した。情報流出のリスクを恐れるあまり、君自身が最も重要な証拠を残してしまった」
「君は、雄吾と迅を消し、晴紀を消した。それは全て、湊の事件が明るみに出ることを恐れた、情報保全のためだ。でも、君は利用していたはずの、愛花梨の行動すら、予測できなかった」
「君の完璧な計画は、人間の心という、君が最も軽視した要素によって崩壊したんだ。君は、愛花梨が芝崎先生の善意と赦しによって、予測不能な自白を選ぶことを、論理的に計算できなかった、いや計算できるはずがない。それは無数の選択肢の中の一つだったのだから」
僕は、由実の冷酷な隠蔽の論理を否定する、人間の可能性を突きつける。
「由実。君は、湊先輩のいじめの真実が明るみに出ることを恐れて、全てを隠蔽し、多くの命を奪った。君の行動は、無数の選択肢を否定し、一つの結末を強制しようとした『冷たい永遠』だ」
僕は、由実の目を真っ直ぐに見据えた。
「湊先輩の事件は、確かに起きた。 だが、その事実が明るみに出たからといって、誰かの人生が決定されるわけじゃない。それは、無数の誰かの選択のうちの一つに過ぎない」
「真実が明るみに出たら、君は「終わる」と信じていた。だが、そうじゃない。真実は、次の選択のきっかけでしかない。「終わる」ことはない。続いていくんだ。」
「君がどれだけ多くの人を消しても、真実が明らかになっても、僕たちの人生は、いつでもゼロからやり直せる。何者にでもなれるし、なんにでも変えられる。君は、その無限の可能性の前に、敗北したんだ」
「環境を変えられないからと、馬鹿にされたら、消すのか?
そうじゃない。それじゃダメなんだ。
そういう考えを持つ人もいる。
でもそれは無数の誰かの思っている選択の一つ。
僕はそうは思わない。
母子家庭がなんだ。由実は由実だ。
選択の一つに左右されないで、選択が無数にあることを理解する、それが「終わりがない」の証明の始まり、「終わり」を理解するための「始まり」なんだ。
そしてそれがStart from scratch、0スタート。
由実はまだ、何者にでもなれるし、なんにでも変えられるってことなんだ」
由実は、力なく床に崩れ落ちた。
僕の「終わらないの証明」という自由な選択の論理によって、彼女の心は音を立てて砕け散った。
「私はね、怖かったの。母子家庭を馬鹿にされたのも許せなかったけど、それ以上に自分の価値が母子家庭で計られているように思ったの。あなたの言う通り、私は私なのにね....」
由実は小さく笑った。




