#20 一幕の終焉
僕は、愛花梨が実行犯であるという晴紀の遺言を胸に、彼女の部屋の前に立っていた。
先生のメッセージを誤解し、きれい好きで周到な冷酷さで剛の命を奪った人物。その背後には、まだ僕が知らない真の黒幕が潜んでいる。
愛花梨の部屋のドアを開けると、彼女は静かに座っていた。
僕が知る冷静さはなく、その瞳には、復讐という「永遠」の道を選び取った者の、深い絶望の色があった。
「愛花梨。全てを知った。芝崎先生の殺害、トランクの偽装、そして剛の殺害と遺書偽造。全ての実行犯は君だ」
愛花梨は否定しなかった。
ただ、冷たく、「湊先輩の絶望を終わらせるには、これしかなかった」と答えた。
彼女にとって、それは過去の苦痛を断ち切るための、唯一の選択だった。
そして、剛は、彼女の完璧な復讐計画にとって、都合の良い変数でしかなかったのだ。
「君は、先生の言葉を裏切った。先生の言いたかった『終わらないの証明』とは、復讐に囚われ『終わってしまう』選択肢だけではない。環境や宿命に縛られても、無数の『選択』ができるという、無限の可能性のことだ」
僕は、彼女が、先生の善意を、いかに歪んだ形で解釈し、復讐の道具にしたかを突きつけた。
「そして、『Start from scratch』は、君が復讐で手を汚しても、いつでもゼロからやり直せるという、先生の最後の愛だったんだ。先生は、君の罪を罰するのではなく、君の未来を救おうとした。君の行動は、先生の赦しを、裏切りで返したことに他ならない」
愛花梨の瞳から、ついに熱い涙がこぼれ落ちた。
彼女は、自分の行動が先生の善意を裏切り、自ら未来を「終わらせる」という選択であったことを悟った。
彼女が求めたのは解放だったが、得たのは永遠の鎖だった。
僕は、芝崎先生のレコーダーを愛花梨に渡し、湊先輩と先生の最後の会話を聞かせた。
愛花梨は、その場で崩れ落ちた。
愛花梨は、クラスメイトを集め、自らの過ちを告白した。
自分が実行犯であること。剛の遺書が偽造であり、剛が濡れ衣を着せられていたこと。
その告白は、重い沈黙となってクラスを包んだ。
剛への非難は、一瞬にして後悔と悲嘆に変わった。
警察は介入しないこの閉鎖空間において、愛花梨の告白は、執行人の断罪と解放を意味した。
僕たちは、もはやこの校舎にいる意味はないと悟った。剛の潔白は証明され、執行犯は自ら罪を認めた。
残されたクラスメイトたちは、この悲劇的な同窓会を自主的に閉鎖する決断を下し、各々が外の世界へ戻る手筈を整え始めた。
愛花梨の件は終わった。しかし、僕の心は晴れなかった。
僕は、閉鎖の準備が進む中で、愛花梨に、真の黒幕について尋ねた。
「愛花梨。晴紀は、誰かの危険から君を守ろうとした。その『誰か』が、雄吾たちを消した、真の黒幕なんだ」
愛花梨は、目を伏せたまま答えた。
「私は、湊をいじめた真犯人が誰か、具体的な名前は知らない。でも、晴紀が誰かの存在に怯えていたのは確かよ。彼は、その黒幕が、雄吾たちが死んだ後も、何か恐ろしい計画を進めていると言っていた…」
愛花梨の言葉は、僕が持っている黒幕の存在の確信を強めた。
愛花梨は、実行犯として全ての幕を引いたが、事件の根源は、まだこの中にいる。
僕は、その真の黒幕の糸口が、剛の遺書で言及されなかった光平の事件にあることを確信し、最後の謎解きへと向かうことを決意した。




