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#18 先生の哲学

僕は職員室の冷たい床に座り込み、思考を巡らせた。先生が殺意を向けられながらも、僕たちに、そして「あの子」に、問いを残した理由。


「終わらない」と「永遠」の違いについて。遺体を公開させるという実行犯の冷酷な計画に、先生は最後の授業を乗せたのだ。


僕はそう思った。


僕の目の前には、「永遠」(Eternity)と「終わらない」(Endless)という二つの言葉が対峙していた。


「永遠とは、変わらないことだ」


それは、過去の事実に縛られて変われない宿命を意味している。湊先輩のいじめという過去の傷、復讐心という固定された感情。


これらは全て、未来永劫同じ論理を繰り返す鎖だ。憎しみに囚われ、同じ過ちを繰り返すことで、人生が一つの終わりに向かって進んでしまう状態だ。


「そして、終わらないとは…」


それは、その鎖を断ち切り、無数の「選択」の自由を掴み取ることだ。

一つの道が閉ざされても、別の道を選び続ける無限の可能性のこと。絶望に立ち向かい、何度でもやり直すことで、人生が決して終わらない広がりを持つことだ。


先生は、復讐という「永遠」の鎖に縛られている「あの子」に対し、「選択」によって未来を切り開き続ける「終わらない」人生があることを、最後の瞬間まで伝えようとしたのではないか。


先生はぼくらにあの日、問いかけた:「終わらない」の証明を終えることはできますか?


僕は高校時代の先生の言葉をさらに思い出す。


「先生は答えが1つしかないものが嫌いなんです。たとえ誰もがどんな方法を試したとしても同じになるのが嫌いなんです。たとえ誰もがどんな方法を試したとしても無数の、それでいて格別の答えに辿り着くのが好きなんです。」


そう、先生はふと言った。


「じゃあ、先生はなんで数学を教えてるの?数学は、答えが、たいてい一つじゃん。嫌いなんじゃないの?」と愛花梨が聞いた。


「嫌いですよ、僕は。でも好きな人もいますから」と先生は答えた。


僕は、いま、先生の言葉を完全に理解した。


終わらないことの証明を終える、これは先生の言葉にヒントがあった。


先生は数学的な答えが決まった証明ではなく、文学的・哲学的な証明のことを言っていた。


すなわち「選択する」、これこそが先生の「証明」だ。

終わらないとはendless、すなわち無数ということ。

選択は、その時の環境や状況、感情によって変わる。その行為は無数である。


仮に僕が死んでだとしても、僕の選択や、僕との思い出が、誰かの選択に影響を与え、また選択されていく。これは終わらない。


けれど永遠ではない。愛花梨のように復讐しかないと思い込み、復讐しか選択できないと思い込んでしまえば、選択は、そこで終わってしまう。


だから、「選択する」、無数の中から、選択できる限り、「終わらない」の証明は可能であり続ける。


「永遠」と「終わらない」の違いは、

「永遠」は人の意志に関係なく続くが、「終わらない」は対義語が「終わる」であるように、

人の見方・考え方、一つで、良くも悪くも、「終わる」ことが可能になってしまう。

これが違いだ。


先生はきっと「あの子」に「道は復讐だけじゃない」と高3の時から伝えていた。そして今もずっと。


数学のもたとえ話だ。

つまり、数学を嫌いじゃない人もいるし、そうじゃない人もいる。

嫌いだと思う人もいるし、好きな人もいる、


『だから復讐だけに囚われないで、湊先輩の分も、「あの子」らしく生きることもできるのではないか』という考えもある

そう言ってたんだ。きっと。


「無数のそれでいて格別の答え」というのは、

無数の選択肢があることを自覚したうえで導く選択のことをいう。


最初から「これしかない」と思って、選択する選択肢ではないということだ。


「Start from scratch」 は先生が「あの子」に、そしてみんなに、「何度でもやり直せる」、「いつでも戻れる」、そう言いたかったのだ。


なぜなら、選択肢は「無数」にあって、「選択」は「終わらない」のだから。


果たして、「あの子」はこのメッセージに気づいたのだろうか。


僕は、このメッセージの真意を理解したとき、剛を陥れた犯人の動機の核心に、恐るべき論理的破綻を発見した。


犯人は、先生の言葉を決定的に誤解していた。


復讐心に飲み込まれていた犯人は、先生の「Start from scratch」を、「過去の邪魔者を排除し、復讐を今すぐ始めろ」という、復讐の容認と開始の合図と解釈したのだ。


そして、先生は、復讐を止めようとしたり、メッセージという余計な行動をとったことを、「約束を破り、計画を邪魔した裏切り者」と見なされて、殺害されたのではないか。


きれい好きで周到な犯人の冷酷さは、先生の善意の言葉さえも、自分の歪んだ論理で解釈し、復讐の道具として利用したのだ。


僕は、この恐ろしい誤解に基づき行動した実行犯を特定するため、晴紀の事件の捜索へと向かうことを決意した。

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